ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

地獄耳の侍女、探してます。

「お兄様のお友達に、地獄耳の魔法が使える淑女はいないの?」
「なんで淑女限定なんだよ」
「万が一に備えたいの」
「万が一?」

 お兄様に問いかけられた私は、どうやってそのことを口にしようか迷った。
 私の口から彼と添い遂げる話をしたら、なんだか正夢(まさゆめ)になってしまいそうで……怖いのよね。ほら、言葉には力があると言うじゃない?
 願望は、口に出すことで初めて叶えられることですもの。
 哀れな子羊だって、願望を口に出すことではじめて救われる権利を得るわけで──。

「……殿下との婚姻」
「──備える必要なんざねぇな」

 お兄様は彼の名を出せば、不機嫌になった。そうなるわよね。
 殿下とはじめて顔を合わせた日、婚姻に乗り気だったお兄様は、ラヘルバ公爵家から戻って来たら婚姻を反対し始めたんですもの。
 不機嫌なお兄様が私に告げる言葉があるとすれば、一つしかないわね。

「俺が居るだろ」

 お姉様やお母様は、お兄様以外のパートナーと一緒に代行業に繰り出すことだってあるのに……。
 なぜか私は、お兄様以外をパートナーに迎えて代行業に繰り出すことが許されていないのよね。
 私とお兄様が言い争いをしていることの方が多い、あまり仲がよくない兄妹だと知っているのに……。
 どうして両親は、何も言わないのかしら?

「てめぇのパートナーは俺だけだ。他の奴らに、てめぇは渡さねぇ」

 独占力を拗らせたお兄様は、鳥がクチバシに咥えて運んできた手紙を手に取ると、暖炉の中でユラユラと揺れていた炎へ中身を確認することなく放り込む。
 裏面に刻印された(ろう)は……王家の紋章だったわよね……?

「お兄様。流れるような動作で、投げ込んだ手紙は……」
「気にすんな」
「気にするわ!中身も見ずに処分するなんて、手紙を書いた人に失礼よ」
「気持ち悪ぃ怨念の籠もった手紙の内容なんざ確認したら、目が腐っちまう」
「お兄様!」

 皇太子が廃太子となった今。
 第二皇子として過ごしてきた彼は、この国を担う皇太子よ。
 いずれは皇帝となる尊き方が認めた手紙を、中身も見ずに暖炉の火へ投げ込むなんて……!
 どんな罰が下るかなど、分かったものではないわ。

「婚姻したくねぇとか言ったり、万が一に備えるとか言ってみたり。てめぇは何がしてぇんだよ」
「それはこちらの台詞だわ!婚姻に乗り気だった癖に、婚姻に反対したりして!挙句の果てには、私のパートナー選びすらも拒絶するなんて、あんまりだわ!」
「あぁ?」

 お兄様が唸って威嚇してきたって、怖くないわよ。
 いつものことですもの。慣れっこよ。
 私はいつものように、売られた喧嘩を買った。

「いつまでもお兄様の思い通りになるなど、思わないことね!」

 決まったわ……!
 
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