ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 私がドヤ顔で左手を腰に当て、右手をビシリとお兄様に向けて指差せば。
 普段であれば呆れて罵倒してくるはずのお兄様は、難しそうな顔で唇を噛み締めていた。

 あら?なんだか反応が……。

「てめぇは、俺のもんだ」
「お兄、様……?」

 私が指摘されるよりも早く、右手を下ろそうとすれば。
 お兄様は私の右手を乱暴に引き寄せ、私を抱きしめた。

 ちょっと待って。どうなっているの?
 わけが分からなくて、私は困惑したまま、お兄様を見つめることしか出来ない。

「俺にしろよ」
「……私と、お兄様は……」
「俺で、いいだろ」

 一度目は自信満々に。
 二度目は苦しそうに紡がれたその言葉へ、冗談でしょうと返すのは違う気がする。
 私とお兄様は、血が繋がった兄妹。
 結ばれることなどない、はずなのに──。

「失礼致します」
「チッ」

 私がどう返事を返していいのか分からず、困惑していれば。
 扉の外からノックの音が聞こえてくる。
 お兄様は私を掴んでいた手を離し、私達の邪魔をしてきた侍女を迎え入れた。

「ミスティナ様。教会より、緊急の連絡が──」
「教会から?」
「はい。ミスティナ様へ、来客がいらっしゃったとか。ご予定が開いているようでしたら、今すぐに来てほしいと……」

 迷える子羊が、助けを求めているのかしら?
 仕事の依頼はしばらく受ける必要はないと、両親から言われたけれど……。
 私を指名しているなら、きっと緊急を要するはずだわ。

「わかった。すぐに行くわ。なんだかよくわからないけれど、私はお兄様のことなど──」
「うるせぇな……。行くぞ」
「お兄様!?」

 開放されたと思ったのに!
 お兄様は私の手首ではなく指を重ね合わせると、離れないように指を絡め、私を引っ張った。
 これって……恋人繋ぎって奴よね。
 私のことを散々馬鹿にしてきたお兄様が、私の手を取るなんて!明日はきっと槍が降るわね。
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