ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「昨夜はお楽しみだったみたいね?」

 ――翌朝。
 朝食を共にしたお姉様が、含みのある笑みを浮かべて私達を見つめる。
 お楽しみって……もう。お姉さまったら。
 含みのある言い方に隠された意図を読み取ったツカエミヤが、吹き出してしまったじゃない。

「姉貴……もっと別の言い方があるだろ」
「殿下をキープしといて、愚弟を(たぶら)かすなんて。ミスティナもやるわね?」
「お姉様っ。変な誤解をしないで!殿下をキープなんて……しているつもりはないわよ」
「ミスティナにその気がなくたって、殿下はそう思っていてもおかしくないわよね。1時間毎に手紙を送付し続けて1週間。150通近く送って一度も返事が返ってこないなら、嫉妬に狂った殿下が痺れを切らして訪ねて来る頃じゃないかしら?」
「手紙はお兄様が──」
「はっ。沈黙の皇子だかなんだか知らねぇが、来るなら来いよ。直接追い返してやる」
「不敬罪にならないよう、気をつけるのよ」
「お姉様!後押ししないでください!」

 カフシー家の家族は、どうしてこうも血の気が盛んなのかしら。情緒不安定なお兄様は今、冗談が通じない。
 この状態で殿下がやってきたら、きっと本気で追い返してしまうわ。

「んだよ、ミスティナ。婚姻したくねぇんだろ。兄ちゃんが追い返してやるからな。安心しろ。会わせねぇし、触らせねぇよ」
「まぁ。愚弟はミスティナへの愛を、包み隠すことなく伝えることにしたのね。お姉様は嬉しいわ」
「うるせぇよ」
「その調子で精進なさい」
「姉貴に言われたって、頑張る気なんざ起きねぇよ」

 お兄様はちらりと私を見た後、バツが悪そうにその場を去った。
 今の視線は……私に精進しろと、声を掛けて欲しかったのかしら?お兄様に望む言葉を掛けてあげるべきだったわね。後で謝っておかないと……。

「愚弟には困ったものね」
「お姉様。お兄様は今、冗談が通じないの。あまり過激なことは言わないで」
「殿下とミスティナの仲を引き裂くように仕向けることが過激なら、愚弟の頭を覗き込んだら、面白いことになりそうね」
「頭の中……?」

 お兄様の考えていることを私が知ったら、面白いことになる?どういう意味かしら。さっぱり理解できないわ。
 お兄様は口に出す言葉と声から出す言葉に、違いがあるのかしら……?

「ミスティナ。穢らわしい愚弟の思いなど気にせず、思うがままに生きなさい」
「ありがとう。お姉様」

 お姉様に背中を押された私は、目を背けていた問題に立ち向かおうと決めた。
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