ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「忘れるな。ミスティナは、おれの妻だ」

 ──翌朝。

 ディミオの剣呑な声と共に起床した私は、彼が従者を睨みつけていることに気づく。
 私へ怒りをぶつけられない代わりに従者へぶつけているのだとしたら、お門違いもいい所だわ。
 なんだか可哀想になって、私は会話に割って入った。

「朝っぱらから、念を押さなくたっていいじゃない……。彼が物分りのいい従者であることは、ディミオの目からも明らかでしょう」
「……ミスティナ?」
「おはよう、ディミオ」
「おはよう、ミスティナ」

 私が目を覚ますとは思っていなかった。
 そんな表情で出迎えたディミオに、私は率先して朝の挨拶をする。
 挨拶代わりの口付けを受けた私は、私と密着したがる彼の腕から逃れるために、ベッドの上をゴロゴロと左右に転がった。

「身支度を整えたら、話の続きをしようか」
「ええ、そうね。その代わり、彼に釘を差すのはやめて」
「アーバンを庇うの?」
「その気がない人にいくら言い聞かせても、お互い無意味な時間を消耗するだけよ。時間は有限ですもの。有意義に使わなければ」
「……そうだね」

 話している間はどうにかゴロゴロと忙しなく身体を動かすことで、ディミオの手から逃れていたのだけれど……。
 このままなら逃げ切れそうだと勝利を革新した瞬間、ディミオに捕まってしまった。
 抵抗する暇もなくドレスを脱がされ、壊れ物に触れるような優しい手付きで真新しいドレスへ袖を通す。

 今日のディミオは、昨日不機嫌だったのが嘘みたいにごきげんだわ。
 ディミオが喜んでいる姿を見るのは悪くないけれど、この後のことを考えたら、不気味で仕方ないわね……。

「昨日の件だけど」

 ディミオは改めて、私の間で取り決めがなされた条件を整理し直す。

 皇太子として公務をしている間限定で、私の為に整えられた部屋で迷える子羊達の相談に乗る。
 私へ相談可能な迷える子羊は、王城で勤務している人に限定されるとのこと。
 まぁ、そうよね。セキュリティ上の問題があるもの。
 王都で暮らす人々ならば誰でも大歓迎なんて、無理な話だわ。

 誰が何を相談しにきたか、ディミオには報告必須。危機が迫ればすぐにディミオを呼ぶこと。
 哀れな子羊を加害しや人間への手出しは──。
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