朝型ちゃんに一目惚れ
 チケットを買って中に入ると、吉田がもらったパンフレットを開き始めた。

「記念だから紙のパンフレットはもらっとかなきゃな!……わ、ペンギンとイルカだけじゃない、クラゲやらカメのショーもあるぞ!!見ろ、陽菜!」

 吉田は陽菜ちゃんに、ビッ!と開いたパンフレットを突き出した。

 陽菜ちゃんは少々呆れ顔になりながらも吉田からパンフレットを受け取ると、それを読み始めた。

「…どれも魅力的ですけど、ショーを全部見てしまったらせっかくのみんなで他に行って遊ぶ時間がなくなっちゃいますよね……」

 陽菜ちゃんの意見ですぐにみんなで見るショーをいくつか決め、その間に水族館内の水槽を見て回ることにした。


「クラゲって癒やされますね、ずっと見ていたいな……」

 穏やかな顔でぼんやりと暗い水槽のクラゲたちを眺める陽菜ちゃんを、俺は少しだけ離れた場所で見ていた。

 こんなにみんなで楽しく水族館に来たというのに、俺の頭の中は陽菜ちゃんのことばかりだった。

 陽菜ちゃんは俺をどう思っているだろう?

 吉田や渡瀬といるときでも、ここまで相手が自分をどう考えているのか知りたいと思ったことはなくて……


「…みんな、ちょっと悪い。トイレ行ってくるよ、もうすぐショーが始まるし」

 俺は水族館内でみんなにそう声を掛ける。

 吉田や渡瀬は、
「朝早かったからって、いま寝るなよ~」
とか、
「ぼーっとして迷子になるなよ〜」
とか返してきた。

 俺は苦笑いで、ハイハイ、と返しトイレに向かった。

 嘘じゃない。
 でも、初めてのこの気分じゃみんなに悪い気がして、一人で少し気持ちを落ち着かせたかったから。
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