いつしか愛は毒になる
麗華が洗面所で丁寧に私の髪の毛を洗うと、タオルで濡れた髪の水分を取っていく。

「あの……河本さん」

「麗華でいいわよ。髪の毛綺麗になったわ、さてと……」

麗華がドライヤーを手に取ろうとして私は慌てて、麗華の手を遮った。

「あ、自分でできるから……」

「いいのよ、私こう見えて昔、実家が美容室経営してたから、髪の毛の扱いには慣れてるの」

「でも……」

「いいから、まかせて」

そう言うと麗華は、慣れた手つきでドライヤー片手に私の髪を乾かしていく。私は鏡に映った自身と麗華の顔を見ながら、まだ今の状況を理解できないでいた。

「早苗さんって、綺麗な黒髪ね」

──麗華は何も聞かない。強引に家に入ってくると汚れた髪の毛を洗ってあげると言って、こうして何も言わずに黙々と私の髪を洗ってくれ、ドライヤー片手に微笑んでいる。

「あの……麗華……さん」

「さ、できたわ」

麗華が私の言いかけた言葉を遮るようにドライヤーのコンセントを抜いて、洗面所の脇にそっと置いた。

「ありがとう……あのね麗華さん、その……髪についていたバターの件だけど……」

(何て言おう……髪にバターがつくなんて不注意でと、いったところで信じてもらえるかし……)

「あ、あの私不注意で……頭からバターを被ってしまって」

(上手に言えているだろうか。お隣さんでましてや雅也さんの仕事先の人でもあるなら、なおさら上手に隠さないと……)

「大丈夫よ、誰にも言ったりしないわ」

「えっ……」
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