いつしか愛は毒になる
麗華は私の髪を撫でながら、にこりと微笑むと、そのまま私の背中を麗華が両手で抱きしめた。

私は訳が分からず、目線だけ鏡に映った麗華に向けた。

「あ、あの……麗華さん?」

「早苗さん……私ね、離婚したの」

「え?」

「夫のDVと度重なる浮気が原因でね……とても耐えられなくて……心が壊れる前に」

「心が……壊れる?」

そういえば、私の心も随分前からもう砕けてなくなってしまう一歩手前まで来ている気がする。

この三年、何度も何度も雅也の為に、良き妻になれるよう必死に努力してきたが、雅也は結婚前のように笑ってくれなくなった。優しい言葉もかけてもらえず、好きだった笑顔も何年も見ていない。

それでも私にとって、雅也は特別だった。平凡な私が雅也のように容姿端麗の男性が好意を寄せてくれて、結婚したいといってくれたときは信じられなかった。そして長男であるにも関わらず、雅也は新山コーポレーションの一人娘の私の為に、婿にまではいってくれた。

そんな雅也の真っ直ぐな愛情に答えたい一心で、いままでずっと耐えてきた。

上手くいかないのは……
全て至らない私のせい。
役に立たない私のせい。
無能な私のせい。

──本当に?

いつしか芽生えた、その疑問に私はずっと気づかないフリをしていた。

──雅也を愛していたから。


「……ひっく……私……」

泣いたのは何年ぶりだろうか。
麗華が泣きだした私の背中をそっと摩った。

「私は貴方の味方よ」

そう言って、麗華は私の涙を指先でそっと拭った。
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