いつしか愛は毒になる
──それから三週間。

私と麗華はすっかり仲良くなり、時間が合えば互いの家に行き来するようになっていた。

始めは建築業界で働く、麗華の休日である水曜日に料理が趣味の麗華に、料理を教えてもらいに行ったついでに、雅也の話を聞いてもらっていた。

やがて雅也がほとんど家で夕食を食べることがなく、朝帰りを繰り返すようになってからは、麗華と一緒に夕食を取ることも増えていった。私は親友と呼べる存在になりつつある麗華に、なんでも話すようになっていた。

「見て、早苗さん。今日は赤ワイン持ってきちゃった」

麗華がいつものようにお邪魔します、と家に入って来ると私に高級ワインの瓶を差し出した。

「わぁ、ありがとう」

「早苗さん、ワイン好きって話してたから」

「えぇ、好きだけど一人じゃなかなか……それに雅也さんワイン嫌いだから」

「じゃあ、今日も雅也さん居ないうちに、二人で空けちゃいましょ」

麗華がウインクをすると、慣れた手つきで食器棚からワイングラスを二つ取り出した。私は煮込んでおいたビーフシチューを二人分よそうと、テーブルにことりと置いた。

「わ。おいしそうっ、私ビーフシチュー大好き」

「ふふ、麗華さん、この間ビーフシチュー好きだって話してたから」

「覚えててくれたのね、さすが早苗さん」

「喜んでくれて良かった」

私たちは顔を見合わせて笑った。

「いただきます」

「いただきまーす」

そして二人で向かい合ってビーフシチューを食べ始めると、すぐに麗華が何かに気づき哀しげな表情を浮かべた。

私は、その理由がわかっていながら麗華に訊ねた。

「麗華さん、どうしたの?」

「早苗さんのその手首……また雅也さんに?……」

私の左手首には包帯が巻かれており、右手と比べると随分と腫れているのが
目視でわかる。

「あ、うん……一カ月の食費の上限を決められているのだけれど……一円オーバーしてしまって……本を投げつけられちゃって……」
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