いつしか愛は毒になる
「えっ、そんなことで?」

「私がいけないの……小数点の切り上げも気をつけなきゃいけなかったのに……」

私の青くアザになっている手首を麗華が心配そうに見つめている。

私は麗華のその眼差しが、いつしか心地よく感じるようになってきていた。ずっと誰にも心配されることなく、ずっと我慢してきたから。こんなふうに心から自分のことを心配してくれてる友に出会えたことだけ、雅也と結婚して良かったと思えるほどに麗華に依存していくのがわかった。

「今度、一度新山社長に話してみようか?」

「麗華さん、それはやめて……こうやって話を聞いてくれるだけで十分よ」

「そうは言っても……」

「ほら、ご飯がまずくなちゃう、一杯食べよ、あ、この赤ワインおいし」

私は注がれた赤ワインを一気に飲み干した。

「こらこら飲みすぎないようにね」

「うんっ……」

私にそう言いながらも麗華のグラスもあっという間に空になり、私が注ぎ入れれば、また直ぐになくなる。

「早苗さん、ビーフシチューと合うわね、ワイン進んじゃう」

「ほんとね、二人して飲んだら、もうあっという間にカラになっちゃったわ」

私が空になったワインの瓶を指さすと、麗華が屈託のない笑顔で笑った。

──その時だった。

「何してるんだ?」

背後から聞こえてきた、その低い声にビクンと身体が震えた。
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