いつしか愛は毒になる
「あ……雅也さん、おかえりなさい」

「新山社長おかえりなさい、お邪魔させて頂いてます」

少しとまどっている雅也に、麗華がにっこり微笑むとビーフシチューを指さした。

「新山社長、今日は早かったんですね、もう夕食は召しあがられたんですか?」

「あ、いや……まだだ」

「そうなんですね、早苗さんのビーフシチュー絶品でしたよ」

「……河本さんのお口にあってなによりです」

「雅也さん……」

私はすぐに立ち上がると、雅也からスーツのジャケットを受け取った。

「早苗、ありがとう」

いつもはお礼など絶対にいわない雅也が、私に優しく微笑むとネクタイを緩めた。

「早苗のビーフシチュー久しぶりだ、楽しみだよ」

「え、えぇ、温めるわね」

私達の会話を聞きながら、麗華がダイニングから立ち上がった。

「じゃあ、夫婦水入らずのお邪魔しちゃ悪いから、私はこれで……」

麗華はさっとカーディガンを羽織ると、玄関先へと向かって行く。

それを見て、私と雅也も見送りに麗華の背中を追った。

「……なんだか、僕のせいで帰らせてしまうみたいで、すみません」

「いえ、ちょうどワインも空にしちゃったし、食事も終わったので」

雅也が頭を掻くのを見ながら麗華がパンプスを履くと、ふふっと笑った。
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