いつしか愛は毒になる
俺は麗華の背中を支えながら、ゆっくり玄関先まで辿り着く。

「河本さん、大丈夫ですか?」

「……えぇ、ちょっとワインが美味しすぎて飲みすぎちゃって……」

(へぇ……)

──丁度二週間ほど前だ。

俺と高坂社長と麗華の三人は、会員制の高級バーで新規の都市開発事業について朝方まで語り合ったばかりだった。その際、高坂社長から麗華がとても酒が強いとは聞いていたが、カクテルにワイン、ビールとかなり飲んだにも関わらず、麗華は涼しい顔で高坂社長が一番につぶれてしまったことを思い出す。

(早苗の前で酔ったフリをして俺に送らせるなんて……大胆な女だ)

麗華はブランドのバッグから、花模様を象ったチャームのついた鍵を取り出すと、玄関の鍵穴を回した。

そして玄関にはいり扉を締めればすぐに、麗華が俺に向かって微笑んだ。

「ちゃんと演技に付き合ってくれてありがとう」

「思ってた以上に大胆で驚いたよ」

「ふふ、早速だけど……この間、高坂社長がつぶれたあと、二人で話してた件だけど……」

そう、俺は高坂社長が酔っぱらって寝てしまったのをいいことに、酔ったフリをして麗華を口説いたのだ。

麗華がこの美貌で独身なこと、いま特定の恋人がいないことは事前に杏子に調べてもらって知っていた。勝算は大いにあった。昔から俺は一度も女に苦労したことがない。顔はそのあたりの俳優並みに整っており身長も高く、いまや社長の肩書までついている。

案の定、麗華はすぐに俺に携帯番号を教えてくれ、今度二人で食事に行きたいとまでいう始末だ。

(女なんて……使い捨ての駒だ)

俺は麗華に向かって微笑んだ。
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