いつしか愛は毒になる
※※※
(ここに来るのも久しぶりだわ……)

私はタクシーを降りると、八階建ての新山コーポレーションの自社ビルを見上げた。父がまだ元気な頃は時々顔を見せに来ていたが、父が他界してからは来るのは初めてだった。

自動扉をくぐれば、すぐに馴染みの受付嬢がこちらをみて微笑んだ。

「奥様、おはようございます。すぐに社長に内線をお掛けいたします」

私は慌てて手を左右に振った。

「あ、会議中だと言っていたから大丈夫よ。社長室に届け物をしたら直ぐに帰るから」

「社長に愛妻弁当か何かですか?本当素敵なご夫婦ですよね」

雅也は会社では勿論、家から一歩出れば信じられない程に、私に優しく誰もが羨む理想の夫を演じている。
私は引きつりそうな口元を何とか引き上げた。

「ありがとう……本当、私には勿体ない旦那様だわ……」

私は心の中が黒い(もや)で染められていくのを感じながら、エレベーターに乗り込んだ。
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