いつしか愛は毒になる
最上階でエレベーターを降り、私は真っすぐに廊下を進んでいく。
突き当りを左に進めば会議室と応接室で、右の突き当りが社長室となっている。

(あら?会議室の電気消えてる……?もう終わったの?)

私はチラッと会議室の扉を見てから、社長室へと向かっていく。

(雅也さんが会議のあいだに、社長室に届けて帰りたかったけど……)

雅也に会えば、また辛辣な言葉を浴びせられるかと思うと、急に気が重くなってくる。私は鞄からネクタイピンを包んだシルクのハンカチを取り出すと、掌に握った。

(謝って……直ぐに帰ろう……)

私が社長室の前でため息を溢したのと、中から誰かの声が聞こえてくるのがほとんど同時だった。

「……ンンッ……あ……」

艶のあるその甘ったるい声に、私はすぐにある人物の顔が浮かぶ。

私が結婚で退職する際に、後任として入社した小林杏子だ。その独特の女を武器にした甘えた声は女性受けは悪かったが、社内の男性社員及び社外の取引先の営業マンからは好評だった。

「雅也っ……あ……やぁ」

「……声我慢しろって言ってるだろ……」

雅也と呼び捨てする杏子の声に、聴きなれた雅也の声が重なりながら私の脳内を静かに確実に侵していく。

「激しっ……雅也っ、奥さんのこと……もこうやって……」

「抱くのは、お前、だけだ……はぁっ……あの女は用済みっ……だ」

(用済みって……私のこと……?)

私は足元は、怒りなのか哀しみからなのか、勝手にカタカタと震えてくる。
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