いつしか愛は毒になる
どのくらい歩いていただろうか。

私は会社を飛び出すと、最寄り駅の前を通りすぎ、海沿いの道を波音を聞きながら呆然と歩いていた。横目にオレンジ色の光が見えて、気づけばもう夕陽が沈みかけていることに気づく。

「私……もう疲れた……」

誰にも拾われることのない言葉は、分かっていても勝手に唇からこぼれていく。私なりに雅也と結婚したこの三年、努力したつもりだ。雅也が私を愛してると言ってくれたから。そんな雅也を私もいつしか愛していたから。そして別人のように冷たくなった雅也に、いつかもう一度愛して欲しかったから。

「雅也さん……ひっく……」

仄かにこちらを優しく照らすオレンジ色のまん丸い光が差し込むと、私の瞳には膜が張って球状になって落下していく。

「お父さんとお母さんのところ……いけるかな……」

私は波音と夕陽に誘われるように砂浜へ降りると、パンプスの中に砂が入るのを構わず海に向かって歩いていく。

もう何もしたくない。
もう何も考えたくない。
もう辛い思いは沢山だ。

「次は……誰かに愛してもらえる人生がいいな……そして私も心から愛した人と添い遂げたい……さよなら……」

私はふっと笑うと、海の中へ踏み出した。

──「早苗っ!!」

その時だった。
私の名を呼ぶ、誰かの腕が伸びてきて私の右手首を掴んだ。

「え………?」

私は聞き覚えのある、その声に思わず顔を上げた。
< 26 / 60 >

この作品をシェア

pagetop