いつしか愛は毒になる
俺の死んだ父は小さな染物工場を経営しており、着物や浴衣を製造販売していた。

小さな工場だったが俺が五歳の頃、父の作った浴衣が地元新聞に取り上げられたことを機に、工場は最盛期を迎えていた。そしてその頃、早苗の父親が地元の町おこしの会長をしていたこともあって、地元テレビ局のスタッフを引き連れ、取材ということでうちの工場に訪れたことがあった。

──『今日は宜しくお願いしますよ』

上質な仕立ての良いスーツにピカピカの革靴を履き、(ひげ)を摩る早苗の父親に、

──『こちらこそ、新山社長どうぞ宜しくお願い致します』

と、汚い作業服姿の父が、床につきそうなほどに頭を下げていたのを思い出す。

子どもながらに父親のへりくだった態度にイラついた。そしてそれよりもムカついたのは、その時一緒に来ていた早苗だ。ブランドのワンピースを身に纏った早苗は、母親が亡くなったばかりということもあり、父である新山社長にべったりで、そんな早苗を新山社長も見るからに甘やかしていた。

早苗は工場の中に展示してあった向日葵がプリントされた浴衣を父親にねだり、その場でうちで働いていた従業員に着付けてもらったのだが、いざ生放送での取材が始まった途端、かゆみを訴え、アレルギーを起こして救急搬送されたのだ。

──原因は家を出る直前、父親に内緒でクッキーを食べたことに起因していた。たまたま早苗が食べたクッキーにココナッツが含まれており、早苗がココナッツアレルギーを引き起こしたのだ。
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