いつしか愛は毒になる
「早苗……これ」

大きな掌で差し出されたココアの入ったマグカップを、私はそっと受け取った。

(さとる)くん……ありが、とう……」

「身体冷えてるから……飲んであったまって」

私は海で偶然再会した、幼馴染の鈴村智(すずむらさとる)に連れられて、智が一人ですんでいるアパートに手を引かれるがままにやってきた。

智も私に差し出したのと同じ、ココアの入った白いマグカップをテーブルに置くと、ふうっと息を吐きかけた。

「……僕、猫舌治らなくてさ……」

そう言って、智が恥ずかしそうに頭を掻く。時計の針の音だけが聞こえてくる静かな部屋で、私は目の前のココアにそっと口づけた。

「……おいしい……」

口内に甘い味が広がって、疲れ切っていた心も脳みそもその甘さに少しだけ癒される。

「良かった……早苗、昔からココア好きだったよな」

「うん……よく二人でココア飲んだね」

智とは、智の父親が私の父のお抱え運転手をしていたことから知り合った。母が亡くなってから、もともと私に甘かった父は、より私を大切に愛情をこめて育ててくれたが、平日は仕事が忙しく、私は寂しさを拭いきれなかった。そんな寂しさを抱えながら、ひとりきりで過ごしていた私に声をかけてくれたのが近所に住む智だった。
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