いつしか愛は毒になる
「あの頃は楽しかったな、毎日トランプしたり、早苗ん()の庭で鬼ごっこしたりさ」

「ほんとだね……智くんのお陰で、私ちっとも寂しくなかったよ……」

「うん……僕も。うちは元々離婚で母親いなかったからさ、早苗がいてくれたから……毎日が楽しかった……」

お互いに小さい頃の話をし終えると沈黙が訪れた。私には雅也には言っていない秘密が一つだけあった。雅也には、私にとっての初めての恋人が雅也だと話して結婚したが……それは偽りだ。

どんなに偽っても、言葉にすることでそう思い込もうとしても、過去は記憶から完全には消し去れない。完全に忘れることなどできない。

──私と智は大学時代、周囲に内緒で交際をしていた。

私にとって智は初恋の人だった。互いに結婚を意識していたが、運転手の息子である智との結婚を、私の父が頑なに反対して結局別れざるをえなかった。

「早苗……結婚生活はどう……?」

智が私の左手の薬指を見ながら、心配そうな表情で私をのぞき込んだ。智はハッキリとは聞かない。何故、私が海に身を投げようとしたのか。

「あ……うん……」

雅也のことを思い出せば、途端に吐き気を催してくる。

「僕には言いにくいよね……ごめん。でも良かったら話してくれないかな……」

「でも私……」

「大丈夫だよ、誰にも言わない。ただ……早苗がどうして……あんなことしようとしたのか……知りたいんだ」

智はそっと立ち上がると、私の隣に腰かけた。

そして、私の手首から外れかけていた包帯を解いていく。

「あっ、やめて智くん……」

「…………」

智はあっという間に包帯を全てほどくと、悔しそうに顔を歪めた。
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