いつしか愛は毒になる
どのくらい泣いていただろうか。智は何も言わずにただ背中を優しく摩ってくれていた。

「……早苗……」

私は穏やかな智の声に顔をそっと上げた。智が私の頬にそっと触れる。

「僕は……ずっと早苗のことが忘れられなかった……」

智が再び私の目から、つっと流れた涙を指先で拭いながら、寂しそうにつぶやいた。

「こうして偶然また会えて……こうして早苗と話してると……ずっと忘れたとおもってたはずの想いがまだ僕の中にあるって……気づいたんだ」

「…………」

「やっぱり僕は、早苗が好きだ……誰にも渡したくない……」

その言葉に心臓がぎゅっと痛くなる。

「……早苗は? 僕と……本気で付き合ってくれてたよね……新山社長の反対さえなければ……今頃、僕たちは……」

私は何て答えたらいいのかわからなくて小さく首を振った。

──そう、私だって本当はできることならば智と結婚したかった。でも臆病な私は父に逆らうことが出来ずに好きな人ができたと嘘をついて、智に一歩的に別れを告げたのだ。そして、心が弱っていた私は、私のことを大切にする、愛してると言ってくれた雅也に寄りかかって流されるまま結婚してしまった。私はなんて愚かなんだろう。

本当はずっとずっと智のことを、私も忘れたことなどなかった。
< 33 / 60 >

この作品をシェア

pagetop