いつしか愛は毒になる
「なくすなんてとんでもございません……いつも欠かさずつけているのですが、今日は早苗に……高坂社長との大事な契約の日だと話したら、亡き父の形見のネクタイピンをつけて言って欲しいと頼まれまして……」

「なに? どうして早苗さんは御父上のタイピンを今日?」

「はい。今日が御社と高坂不動産の今後の大きな転機となる大プロジェクトの契約とあって……もし義父が生きていたら、きっとこの日を喜んだだろうと……そんな契約の瞬間を義父にも見せてあげたい……そう言って、僕にどうしてもつけて言って欲しいとお願いされてしまいまして……申し訳ございません」

俺の話を聞いた高坂社長はすぐに大きな声で笑うと、俺の背中を二度叩いた。

「そうかそうか、早苗さんは本当に御父上のことが大好きだったからね。それに今の私があるのも、亡き新山社長の類まれなるリーダーシップと決断力、そして並外れた経営力のおかげだとおもってるよ」

「そのように高坂社長から仰っていただき、天国の義父も喜んでいますでしょう。帰ったら早苗にも伝えます」

高坂社長はサラサラと契約書にサインをすると、麗華から印鑑を受け取り捺印をすませた。

(ふっ……これでまた、四億は稼げるな)

そして麗華が契約書を俺にさっと手渡す。

「新山社長、間違いございませんでしょうか?」

「はい、確かに受け取りました」

俺は緩みそうになる口元を引き締めると、契約書を自分のビジネスバッグに仕舞った。
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