愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 私がライオネルから手当を受けている間も、二人の間の重苦しい空気が変わることはなかった。

 ――ああ、いったいどうしてこんなことに? 私がガラスを割ったせい? それに、どうしてウィリアムはあんなに怒ったのかしら……。

 その理由を、ルイスなら知っているはず――そう考えて、私はルイスに視線を向ける。
 すると途端に弧を描く、彼の唇。

 ――やっぱりそうなのね。ウィリアムの様子がおかしい原因は、ルイスのせいなのね……。

 私を心配しているように見える彼の態度も、深い葛藤に満ちた表情も――それら全てがルイスの策略によるものなのだと、私は理解する。

 ――ルイス、あなたはウィリアムに何をしたの? 彼に何を吹き込んだの?

 まだたった一日。私がルイスと契約を交わして、ほんの一日しか経っていない。
 けれどその(かん)に、たったそれだけの短い(あいだ)に、既に状況は変わってしまった。
 いや、変えられてしまったのだ。ルイスによって。

 ――ああ……このままでは……このままでは本当に……後戻りは、できない……?

 私を嘲笑うルイスの薄い笑みに、全身の毛がぞわと逆立つ。

「もう少し横になっていた方がいいよ」と、私を気遣うライオネルに反応すらできないほどに……私の中の何かが大きく軋む。理性を保てなくなる――。

 何もかもをのみ込んでしまいそうなルイスの真っ暗な瞳に……何も考えられなくなる。
 ウィリアムの辛そうな顔に、ルイスの歪んだ表情に、私の心が悲鳴を上げる。

 ――あぁ、駄目だ。もう……限界だ。

 私の心を守っていた壁が……ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。必死に造り上げてきた心の鎧が、無理やりはがされていく。

 私の中の弱い自分が……本当の私自身が、さらけ出されていく――。
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