愛しのあの方と死に別れて千年<1>
第3章 悪女の理由

1.カーラと兄と王太子

「どうしましょう……どうしましょう……」

 まだ日の高い時間――少女は一人、部屋の中を行ったり来たりしていた。その部屋は少女のお気に入りの白い家具と、沢山のぬいぐるみで飾られたとても可愛らしい部屋。
 まさに少女の心を写し出したような部屋である。

 少女の名前はカーラ・スペンサー。スペンサー侯爵家の四人兄妹の末っ子に当たる。
 先月十六になったばかりのカーラは、悲壮感溢れる様子で頭を抱えていた。

「あぁ、駄目だわ。どうしたらいいのかわからない。お兄さまに相談しようかしら……」

 カーラはぶつぶつと呟いたかと思うと、せわしなく自室を後にする。向かうは屋敷の二階、一番奥の部屋だ。

 カーラは長い廊下を一気に駆け抜けると、乱暴に扉を開け放った。

「お兄さまッ!!」

 するとカーラの呼び声に返ってきたのは、苛立つような声と――罵声。

「ああッ、くそ、外したッ! ――カーラ! 部屋に入るときはノックしろっていつも言ってるだろ!」

 それはカーラの二番目の兄、エドワードの声だった。

 エドワードは、部屋のど真ん中に置かれたビリヤードのテーブルに上半身をかがめた体勢でカーラを睨みつける。どうやらストロークを外してしまったようだ。
 その証拠に、エドワードのすぐ横には彼のミスを嬉々として眺める――エドワードと瓜二つの双子の弟――ブライアンの姿があった。
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