愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「こんばんは、レディ。ダンスはお好きですか?」
「もしよろしければ、私と一曲踊っていただけませんか?」

 二人はなるべく紳士を演じる。
 けれど少女は彼らをほんの一瞬見ただけで、すぐに視線を逸らしてしまう。

「わたくしは誰とも踊りません」
「――ッ」

 二人はそのあまりにもきっぱりとした拒絶に驚き、口を(つぐ)んだ。
 普通ダンスの申し出を断るときは、もっと回りくどい言い回しをするものだ。こんな直球な断り方、されたことがない。

 けれど彼らは彼女のそっけない態度に、一層興味をそそられた。好奇心を強く刺激された。その日の舞踏会が特に退屈だったからという理由もあったのかもしれない。

「ダンスがお嫌いでしたら、私たちとお話ししましょう」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 二人は無礼と知っていながら、少女の前に立ちふさがる。
 すると当然、少女は不快感を露わにした。

「わたくしの前に立たないでくださる? 話すことなど何もありませんわ」

 眉をひそめ、ピシャリと言い放つ少女。――だが二人は諦めない。

「そんな冷たいことを仰らないでください。私はエドワード・スペンサーと申します。そしてこちらが――」
「エドワードの弟のブライアンです。以後、お見知りおきを」

 ――しかし彼らのアピールも虚しく、少女は沈黙を通し続ける。これは全くの脈なしだろうか。

「あの……レディ?」

 ダメ押ししてみるが、やはり反応はない。――さすがの二人も諦めかけた。そのときだ。
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