愛しのあの方と死に別れて千年<1>


 目の前の少女の瞼が、ほんの一瞬だけ見開いた。それはとても驚いた様子で。

 ――何か、見ている?

 二人は彼女の視線を追う。するとそこには、大勢のレディに囲まれている見知った男の姿があった。

「――エドワード様」
「は、はい」
「あの方、どなたかご存知?」

 あの方、というのが、レディたちに囲まれているあの男であることに、エドワードはすぐに気が付いた。そして同時にとても残念に思った。ああ、つまらない――と。
 ――結局女ってのは、皆ああいう男に弱いんだ。彼は内心ため息をつく。

「ウィンチェスター侯爵家のウィリアムだよ。ウィリアム・セシル。俺たちのいとこ」

 エドワードに続いてブライアンも、どこか投げやりな口調で続ける。

「確かにウィリアムは顔も頭もいい。寄宿学校(パブリックスクール)じゃ監督生(プリフェクト)だったしな。君もああいう男が好みか」

 少し(しゃく)だが、ウィリアム相手では勝ち目はない。そう考えた二人はその場から立ち去ろうとした。

 けれど少女は何を思ったのか、そんな二人を呼び止める。

「お待ちになって。わたくし、アメリア・サウスウェルと申しますの。少し、わたくしの話し相手になってくださらない?」

 少女――アメリアはそう言って、小さく微笑んでみせた。
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