愛しのあの方と死に別れて千年<1>

11.消えたアメリア


 強い日差しが照りつける。

 王都エターニアから馬車で約一時間のところにある森と湖。その湖の側には一本の川が流れていた。川は森の途中で二手に分かれ、一方は森の奥深くへ、そしてもう一方は森を抜けて街道沿いに流れていく。

 その森と街道がちょうどぶつかる辺りを、馬に乗った青年が軽快に駆け抜けていた。

 青年は川に差しかかると、いつものように速度を落として馬から降りる。

 森の恩恵を受けられるそこは、彼のいつもの休憩場所であった。木々の下の日陰は夏でも涼しく、水は年中通して冷えている。馬を休ませるのにもうってつけだ。

「さ、ちょっと休憩しようか、スバル」

 青年は愛馬(あいば)に声をかけ、手綱を引きながらゆっくりと土手を降りていく。

「いいよ、好きに飲んでおいで」

 下まで降りたところで青年は手綱を放し、一度は手近な岩に腰かけた。が――すぐに立ち上がる。

「あれは……?」

 彼は気付いてしまったのだ。小石だらけの川岸で、下半身を水に浸けたまま倒れている少女の姿に。

「――ッ!」

 刹那――彼は少女に駆け寄った。
 冷えた身体を抱き上げ、声を上げる。

「君! 大丈夫⁉ 返事をして!」

 けれど返事はない。――このままでは……。

「――スバルッ!」

 彼は愛馬を呼びつけると、少女を抱きかかえ一気に土手を駆け上がった。
 スバルも主人について土手を上がる。

「ごめんね、スバル。疲れてると思うけど、急ぎなんだ。頼む」

 すると主人の言葉に応えるように、愛馬はひと鳴きした。同時に青年の表情が凛としたものへと変わる。

 彼は少女を抱えたまま(くら)(また)がると、慣れた手付きで手綱を左手に持ち、一気に馬を走らせた。
< 93 / 195 >

この作品をシェア

pagetop