愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 *

 今しがたアメリアが倒れていた川岸に、ルイスは一足遅れて辿り着いた。

「アメリア様! アメリア様!」

 彼は声を張り上げる。

「アメリア様! 聞こえますか⁉」

 ルイスの頭には王都とその周辺の地形が全て叩き込まれていた。当然この森も例外ではなく、アメリアが流れつくならこの川岸以外にはないと彼は確信していた。

 だがどれだけ探してもアメリアの姿はない。

「……どういうことだ」

 呟いた刹那、ルイスの身体が一瞬ふらつく。
 彼はバランスを崩しかけ、けれどどうにか持ちこたえた。

「――くっ」

 額から汗が噴き出る。心臓の鼓動がいつになく早い。
 それは一刻も早くこの場所に辿り着こうとして使った、力の反動だった。

「は……っ、さすがに、きついか」

 彼は両足に力を込める。その覚束(おぼつか)ない足取りを立て直すべく。

「しっかりしろ……」

 こんなところで時間を無駄にしている場合ではない。

 自身にそう言い聞かせ、ルイスはもう一度辺りを見回す。何か手掛かりがあるはずだ、と周辺を探索し――そしてついに発見した。

「……濡れている」

 川岸から土手の上まで長く続いている水跡。それだけではない。

(ひづめ)……? 馬か!」

 彼は蹄の跡を追い土手を駆け上がった。
 するとそこにはまだ真新しい馬の蹄の跡が、ずっと先まで続いている。

「この先は……」

 王都エターニアに次ぐ都、アルデバラン――。

 ルイスはアルデバランへと続く街道のその先を、鋭い眼光で見据える。

「……まったく、あなたという人は――」

 独り呟いて、ウィリアムの元に戻るべくその場を後にした。
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