忘れられた恋の物語
話すのをためらう様子を見て、不安を覚えた。もしかしたらその子は…。


「亡くなったの。ちょうど今くらいの季節だったし、柚茉ちゃんの髪を見て思い出したの。」

「…叶わなかったんですね。」

「…この職業だから若い子が亡くなってしまうところを何度も見てきたけど、やっぱり胸が痛かった。毎回悲しくなる。」

「…それなら私が代わりに叶えたことにしたいです。勝手ですけど。同じ病院に入院してた縁で。その子の名前は?」

「名前は…教えられないの。個人情報だから。」

「あっ。そうですよね。」

「柚茉ちゃんがあの子の名前を知らなくても、代わりに叶えてくれたって知ったら喜ぶと思う。そういう子だったから。」

「…そうだといいです。」


看護師さんと別れて病院を出た私は、さっき聞いた話を思い出していた。

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