妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
「っ! げほっげほっ!」
「げほっ。うぁ……」

 一瞬にして満たされた白煙を吸ってしまいヴィーニャとシルディアが咳き込んだ。
 途端、回り始める視界に、ぐわんぐわんと脳を直接揺さぶられるような感覚。
 シルディアは立っていられず膝をついた。

(これ、休憩室の時も……)
「シルディア様!?」

 対してヴィーニャはなんてことないような顔をしている。
 急激なめまいと吐き気に対応できるような人間がこの世にいるのだろうか。

「ヴィーニャ、あなた、げほっ! どうして立っていられ、るの……?」
「? なんのことですか?」

 きょとんとしたヴィーニャの顔に、シルディアは一つの可能性を導き出した。

(ヴィーニャの言葉は嘘じゃない。だとすれば、煙だけで起こる現象ではないはず。わたしにだけ効かせるために、なにか仕込みをしているに違いないわ)
「おや? 本来なら意識を保てないはずなんですが……。しぶといですね。もしや規定量を飲まなかったのですか?」

 男が近付いて来ているのか、段々と声が近くなる。
 ぐるぐる回る視界を閉じ、シルディアはどうにか頭を動かした。

(規定量? ……薬を飲まされたのね。白煙と合わせるとめまいを起こすようなもの。問題はいつ飲まされたかよ)

 今日か昨日か分からないが、夜会というイレギュラーな場に参加した。
 普段から食べ物には気を使い、オデルが手がけた食事しかしていなかったため、毒味をつけていなかった。

(でもヴィーニャが持ってきたタルトは食べなかったし、その他に夜会で口にしたものなんて……ある、わけ)

 シルディアはさっと青ざめる。

(イチゴのカクテルを飲んだわ! あれは半分をオデルが――――っ!?)

 前触れもなく階段から突風が吹き抜ける。
 地下へと抜ける風など存在しない。
 そのため地下にいる全員が、何者かが意図的に風を送り込んでいるのだと理解した。
 コツコツと階段を降りる音が響く。
 その足音に乱れはなく、絶対的な自信を感じさせる。
 漆黒のマントを揺らし階段を降りる彼こそ、シルディアが心から待ち望んだ――

「やっと見つけた。俺の白百合」

 シルディアのオデル(つがい)だ。
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