スイート×トキシック

「……すみません。そこのカメラはダミー状態なんです」

「ダミー?」

「故障中でして。1か月近く放置されてます」

 ────嘘をついてしまった。

 平静を装うが、先ほどの比じゃないくらいに心臓が早鐘(はやがね)を打っている。

 バレたらどうなるのだろう。
 犯人隠避(いんぴ)の罪になったりするのだろうか。

 隙のない刑事の眼差しにさすがに怯みそうになるも、ややあって彼は落胆気味に視線を外した。

「……そうですか。こりゃ難航するな」

 懐疑(かいぎ)を免れたようで、思わず息をつく。
 何だか酸素が薄かった。

「ちなみに、不審車両の目撃情報があることはご存知ですか?」

「……あ、はい。新聞やネット上にも記事として出てますよね」

 何とかそう返すものの、頬が強張ってしまう。

 車種が俺のものと同じということに加え、十和が動かした形跡もある以上、疑惑は確信へと変わっていた。

「ええ、先生も同じ車に乗られてるそうで」

「それは……わたしが疑われてるということでしょうか」

「いえいえ、一応参考にはしてますがそれだけで容疑者にはできませんよ。ナンバーも分からないし、よくある車種ですからね」

 その言葉が本当ならば、さほど疑われてはいないようで少しだけ力が抜けた。



 ────警察への対応と雑務を終えた頃には、すっかり夜になっていた。

 駐車場に停めた車の中で、項垂(うなだ)れるようにハンドルに突っ伏す。

(十和は、なぜ日下を……?)

 好きだったんじゃないのだろうか。
 それが高じて異常な愛情表現に走ってしまったのか?

(そうだとしたら、俺の友人たちが音信不通になった件とは、さすがに無関係だよな……?)

 十和の荷物の中にあった錠剤のシートのことを思い出す。

 日下を(さら)うのにあの睡眠薬を使ったはずだ。
 あの苺ミルクに混ぜて飲ませ、俺の車を使ってどこかへ運んだということだろうか。

(そんなにうまくいくか?)

 いずれにしても睡眠薬を使ったのであれば、手出しするにしてもどこかへ連れ去ってから、と考えていたはずだ。

「急がないと……」

 警察より誰より早く、日下を捜し出すしかない。
 これまで以上に本腰を入れて捜索しなければ。

 十和が殺人犯になってしまう前に。
 誘拐犯として捕まってしまう前に。

 急いで車を発進させると、夜の闇を割って走る。

 焦燥感に身を削られる思いだった。
 その狭間(はざま)で切に願う。

(どうか無事でいてくれ、日下)

 十和の────俺の大事な弟のために。
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