スイート×トキシック

 はさみを開いて、じょき、じょき、とずたずたに切り刻んでいく。

 原型を留めないくらいに制服を切り裂くと、ゴミ袋に突っ込んだ。
 そこには血まみれのブルーシートも入っている。

「……でも、これは無事でよかった」

 布団の上に置いてあったカーディガンを手に取る。
 最後の日、彼女はこれを着ていなかったから汚さずに済んだ。
 持ってきたハンガーにかけておく。

 クローゼットの前には、大事な戦利品(コレクション)たちが連なったまま。

『捨てて欲しいの、これぜんぶ』

 そんなふうに言っていた彼女を思い出し、つい困ったように笑った。

「……もー、芽依ってば本当に嫉妬深いんだから」

 ひとつひとつ拾い上げ、抱えたまま部屋を出る。

 もともとこれらを保管していた部屋のクローゼットにかけ直した。
 芽依のカーディガンも一緒に並べておいて、再び監禁部屋へ戻る。

「さーて、片付けよう」

 広げたゴミ袋にクッションやぬいぐるみ、本、雑貨、ラグ────芽依のために買ってきたものを次々放り込んでいく。
 血を浴びて傷んだ薔薇の花束も、落ちた花弁も余さず。

 最後にうさぎのぬいぐるみを拾い上げた。
 裁ちばさみで背中を裂いて、仕込んだ盗聴器を回収してから捨てる。

 洗面所に残された、歯ブラシやら化粧水やらの日用品も一掃した。

 どうにかひと袋におさまって、小さく息をつく。

 それを眺めていると、ふっと思わず冷たい笑いがこぼれた。

 父親もまさか、送った金がこんなふうに使われているなんて思いもしないだろうな。

(……これで本当に終わりか)

 きゅ、と袋の口をきつく縛る。
 何となくもの寂しい気分になって、自ずと記憶が蘇ってきた。



     ◇



 ────4月。
 芽依と出会ったのは2年生に進級した始業式の日。

 彼女とは隣の席だった。

「俺、朝倉十和。よろしくー、芽依ちゃん」

「えっ? あ、よろしく……」

 見るからに怪訝(けげん)そうな顔をされた。
 “はじめまして”なのにいきなり馴れ馴れしすぎたか、と苦笑する。

「ごめんね。座席表見たんだけど、苗字の読み方分かんなくてさ」

「あ……そういうこと」

 腑に落ちたように頷いた芽依は言葉を繋ぐ。

「くさかって読むの。日下芽依。改めてよろしくね、朝倉くん」

 すっかり警戒を解いたように、ふわりと笑いかけてくれる。

 かわいらしい子だった。
 背が低くて華奢(きゃしゃ)で、髪が綺麗で、仕草も雰囲気も女の子らしい。

 それをきっかけに、他愛もないことを話したりノートを借りたりと関わるようになった。



 ある朝、教室に入ると女の子たちが輪を作って固まっていて、その中心に芽依の姿があるのに気がついた。
 どうやら手作りのお菓子を配っているみたいだ。

 席へ戻ってきた彼女は俺を認めると「あ」と声を上げる。

「朝倉くんにもあげる」

「え」

 差し出されたのはチョコレートケーキっぽいお菓子。
 綺麗にラッピングされていてかなり本格的に見えた。
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