スイート×トキシック
「ブラウニー、作りすぎちゃったから」
「いいの? 本当に?」
「もらってくれたら嬉しいな。口に合うといいんだけど……」
はにかむように笑った芽依につい目を奪われる。
もしかして、これをもらったのは男子だと俺だけなんじゃないか、なんてちょっと舞い上がってくすぐったい気持ちになった。
「ありがと。……嬉しい」
────そんな中、俺が“疑惑”を持ち始めたのは中間テストが返されたときのこと。
颯真の担当だから特に数学を頑張ったけれど、あまり点数が振るわなかった。
やっぱり勉強は嫌いだ。
「よく頑張ったな、日下」
すねたように自分のテストを眺めていたとき、聞こえてきた颯真の声にはっとした。
彼の顔には珍しく優しい微笑が浮かんでいる。
(いいなぁ)
いい点とったらあんなふうに褒めてもらえるんだ。
羨みつつもふてくされ、席へ戻ってくる芽依を見やる。
何やら相当嬉しそうにしていた。
「そんなに点数よかったの?」
「えっ!? う、ううん、別に」
そう言う割に何だかそわそわしている。
白い頬を桜色に染め、照れくさそうに口元まで緩めて。
テストの結果を喜んでいるだけには見えない。
この感じは知っている。何度も目にしたことがある。
恋をしている、幸せそうな顔。
(まさか、颯真に……?)
◇
「え、手紙?」
ある日、颯真と一緒に夕食を取っていると、切り出された話に衝撃を受ける。
「ああ……。最近、俺のシューズロッカーに入れられてるんだ。差出人不明の手紙が」
「へー、どんなの?」
渡されたのはかわいらしい封筒。
便箋いっぱいに丸っこい文字で、颯真への想いが綴られている。
「……ラブレターだね」
肩をすくめて苦く言った。
差出人の名前はないが、文面的に生徒からだと読み取れる。
心の中のざわめきとはびこる黒い靄が濃くなっていくのを自覚しながら、あえておどけるように続けた。
「しかも生徒から? 禁断の恋じゃん」
「……茶化すな。俺も困ってるんだ」
よかった、と内心思う。
この手紙の主に颯真をとられるようなことは、ひとまずなさそうだ。
思わず笑いながら、折り畳んだ便箋を封筒へ戻す。
「じゃあ俺が解決してあげるよ。これ以上エスカレートする前にさ」
「できるのか?」
「任せといて。……ちょっとやることあるから、それが終わってからになるけど」
颯真にまとわりつく“邪魔者”の存在を思い返す。
大学時代の友人だか何だか知らないけれど、ひどく目障りだ。
ひとりは既に片付けられたものの、もうひとりは────。