スイート×トキシック
思考を影が覆い始めたとき、テーブルの上に置いてあった颯真のスマホが鳴った。
はっと我に返る。
(あいつか?)
彼のもうひとりの友人。
この間消した女を執拗に心配しているようだし、そういう意味でも急がないといけない。
「悪い、ちょっと」
スマホを手に廊下へ出ていく颯真を見送ると、浮かべていた笑みを消した。
(めんどくさいけど、さっさとやっちゃお)
手紙のことも気になるし、颯真も迷惑しているみたいだから早く何とかしてあげなきゃ。
(色々とね)
◇
早めに学校へ行き、職員玄関を張っていた。
出勤した颯真が靴を履き替え、ほかの先生たちの姿もなくなったのを確かめると、シューズロッカーへ歩み寄る。
(あの手紙の、丸っこくてかわいい文字……なーんか見覚えあるんだよね)
そんなことを考えながら、颯真のシューズロッカーを開けた。
隠し持っていた小型カメラを裏返す。
両面テープの剥離紙を剥がし、ロッカーの奥に貼りつけておいた。
(ま、これではっきりするか)
教室に入ったとき、ちょうど予鈴が鳴った。
席について鞄を下ろす。
「はよ、十和」
「おはよー」
何人かの友だちと挨拶を交わしつつ、芽依にも声をかけたとき、彼女が英単語帳を眺めていることに気づいてはっとする。
「待って、今日って水曜日?」
「そうだよ、小テストの日」
毎週水曜日に実施される英単語の小テストは10点満点で、5点未満だと放課後に再テストを受けなければならない。
(やっば)
すっかり忘れていた。
けれど、再テストなんて受けている場合じゃない。
「ねぇ、芽依ちゃん。そのノートって使ってる?」
机の上に置いてあった“単語ノート”と書かれたものを指す。
「ううん、いまは」
「お願い! 見せてくれない?」
「いいよー。ふふ、単語帳忘れたの?」
「ありがと。単語帳っていうか小テストのことすら忘れてた。それどころじゃなくてさ」
快く差し出してくれたノートを受け取りつつ苦笑する。
「何かあったの?」
「いや、ううん。ちょっとねー……」
生返事をしつつ、ぱらぱらとページをめくってみた。
英単語とその意味が、分かりやすく丁寧にまとめられている。
それを見て、ぴんと来た。
(これか)
手紙の字体に対する既視感の正体は、芽依の字だったのだ。
以前、ノートを借りたときに見たんだ。
(芽依ちゃん、本当に颯真のこと好きなんだね)
ノートに記された彼女の文字を指先でなぞる。
「……残念だな」
小さく呟くと、芽依が顔を上げた。
「え?」
「何でもない」
くす、といつものように笑っておく。
とりあえず差出人を突き止められただけで十分だ。
焦らず、慎重に、やるべきことを進めていこう。