スイート×トキシック



 再テストを免れ、さっさと帰宅した。

 リビングに荷物を置いてから監禁部屋に顔を出す。
 俺の姿を見るなり、女はおののいたように身を縮めた。

「そんな怯えなくて大丈夫だよ? 穂乃香さん」

 颯真の大学時代からの友だちである彼女は、だけど颯真のことが好きらしい。

「ごめんなさい……ごめんなさい……。お願い、殺さないで……」

 目を覚ましてからというもの、蒼白(そうはく)な顔でそんなことを呪文のように唱え続けている。

 笑みをたたえながら歩み寄ると正面に屈んだ。
 冷えた頬にそっと手を添えてやる。

「殺さないよ。俺はただ、ふたりで仲良く暮らしたいだけ。そのためにここへ来てもらったんだから」

「え……」

 揺れる瞳を捉えつつ、優しく笑いかけた。

「そんな顔しないで。俺、きみのこと好きなんだよ。街で見かけてひと目惚れしちゃった」



 ────リビングのソファーで横になっていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
 かなり疲れているみたいだ。

 無理もないと思う。
 “前回”からほとんど間を置くことなく今回の犯行に及んだ。

 それが終わったら、たぶんまたすぐ行動に出なきゃならない。
 これ以上、颯真の安穏を(おびや)かされないうちに。

「はぁー……」

 疲弊(ひへい)してはいるものの、下手なミスをしないように細心の注意を払わなければ。

 そのとき、インターホンが鳴った。

「誰ー……?」

 こんなときに厄介だな。
 そう思いながら重たい身体を起こし、ガムテープ片手にひとまず監禁部屋へ向かう。

「ごめんね、穂乃香さん。ちょっとだけ我慢して」

 彼女の口元に、ちぎったテープを貼っておく。
 ここぞとばかりに叫ばれたら困る。

 それから玄関へ向かうとドアを開けた。

「あれ……」

 驚いてしまう。
 そこに立っていたのは、スーパーの袋を()げた颯真だった。

「連絡もなしに悪いな」

 いつものように家へ上がろうと一歩踏み込んできたのを見て、俺は慌てて戸枠に腕を伸ばした。
 彼の行く手を阻む。

「ごめん、今日はちょっと」

 いま入られたら色々とまずい。
 心臓が早鐘(はやがね)を打った。

 何かうまいこと言い訳できればよかったのに、とっさに思いつかなくて黙り込んでしまう。

「……そうか。そういうこともあるよな」

 納得してくれたのかは分からないけれど、特別(いぶか)しんでいる様子もない。

「ごめんね、せっかく来てくれたのに」

「いや、突然来た俺が悪かった。これだけでも渡しておく」

 差し出された買いもの袋を受け取る。

「ありがと」

 それで帰ってくれるかと思ったものの、颯真は動こうとしない。
 どこか真剣な様子で口を開く。

「……おまえ、俺の車使ったか?」
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