スイート×トキシック

「じゃあ、俺はどうすれば……」

「大丈夫! 俺が何とかするからさ、兄貴は何も心配しないで」

 これしき、そう深刻になるほどのことじゃない。
 俺に任せておいて欲しい。

 颯真の笑顔を奪うストーカーさんには、ちゃんと痛い目に遭わせてあげるから。

「あ、ああ……。頼む」

「うん! じゃあまたね」

 にこやかに手を振って見送った。

 颯真が俺を頼ってくれている。
 その事実が嬉しくてたまらない。



 包丁を手に廊下を歩いていく。

 事情が変わった。
 あまり長々と穂乃香(この女)に構っている余裕はない。

 がちゃ、と監禁部屋のドアを開ける。
 彼女は相変わらず怯えた様子で縮こまっていた。

 つかつかと歩み寄り、乱暴にテープを剥がす。

「……っ」

「ごめん、気が変わっちゃった」

 包丁を逆手(さかて)に持ち、切っ先を向けて構える。
 浮かべていた笑みを消した。

「あのさ、聞かれたことに正直に答えてくれる?」

「な、何……ですか……?」

「宇佐美颯真────当然だけど知ってるよね。お姉さんさぁ、颯真のこと好き?」



 刃先から血が滴る。
 彼女はすぐに動かなくなった。

 俺の質問に頷けば暴力でねじ伏せてやり、それに耐えかねて否定した瞬間に用なしとなった。

 最後には、突き飛ばしたときに窓の下枠の出っ張りに後頭部を打ちつけて息絶えた。

 いままでよりかなり強引なやり方で終わらせたけれど、色々と立て込んでいるから仕方がない。

「今日は寝れないなぁ」

 さっさと後始末をしなければならない。
 ()(てっ)してやらないと、学校へ行けない。

 カメラの回収や映像の確認をしたり、ストーカーから颯真を守ったり、やらなきゃいけないことがたくさんあるのだ。

 無用な疑いをかけられないためにも、休む選択肢はない。

 ────小花柄のワンピースをハンガーにかけ、クローゼットにしまう。
 少し血が飛んでしまっていたけれど、きっと柄に溶け込んで分からない。

「疲れたぁ……」

 ばたん、と床に倒れ込んだ。
 とんでもない疲労感に襲われる。

 普段なら数日に分けて行う作業を十数時間で終えたのだから当たり前だ。

 しかも、これで終わりじゃないのだから本当に骨が折れる。
 実は殺すことそのものより、事後処理の方が大変だったりする。

 とはいえ、ひとまず区切りはついた。

 時刻は朝の7時を回っている。

「もー、準備しなきゃ」



 登校後、人目を警戒しながら職員玄関へ向かった。
 颯真のシューズロッカーから小型カメラを回収する。

(さて、誰が映ってるかな)

 大方の予想はついているけれど。
 くす、と笑いつつポケットにしまう。

 教室へ向かう前にお手洗いに寄り、個室に入った。
 カメラをスマホと繋げてさっそく映像を確認する。

 早送りしたりしながら、シューズロッカーが開くシーンを確かめた。
 そこには颯真と俺のほかにもうひとり映っていた。

(芽依ちゃん)
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