スイート×トキシック

 やっぱりね、とほくそ笑む。

 颯真のこと、本気で好きなんだ。
 こんなことしちゃうくらい。

(へぇ……)

 ふわふわして見えるのに、意外と芯があるみたいだ。

(健気(けなげ)にアピールしちゃってかわいいなぁ。意味ないのに)



 寝不足なせいで1、2限目はほとんど寝落ちしてしまったけれど、3限目の数学だけは頑張って起きていた。

 思う存分、颯真のことを見つめていられる至福の時間だから。

 チャイムが鳴って授業が終わると、崩れるように突っ伏した。

(眠い……)

「……大丈夫? 朝倉くん」

 ふいに芽依から声をかけられる。

「んー、だいじょぶ」

 伏せた腕に頭を載せ、顔だけ彼女の方を向く。

「何か疲れてるみたいだね」

「うーん、まあね……」

 誤魔化すように苦笑しておく。
 芽依はその間も机に目を落としたまま何かを書いていた。

「何してるの?」

「今日の分の宿題だよー。数学の問題集」

 ああ、と思った。

(颯真が担当だから頑張れるのは、きみも一緒なわけね)

 ふと芽依が顔を上げ、教卓の方を見る。
 俺もつられてそちらに目をやった。

 颯真の元へ、委員長が何やら授業の質問をしにいっているみたいだ。

 1冊の教科書を覗き込んでいるわけだから仕方ないとはいえ、距離が近い。
 彼女にも颯真にも他意なんてないだろうけれど。

(でも……)

 ちら、と芽依に視線を戻した。

 強い眼差しで委員長を捉えている。
 シャーペンを握る手が小さく震えたかと思うと、ばき、とその芯が折れた。

(こわー)

 どうやら芽依は嫉妬心がかなり強いらしい。
 あるいは独占欲も。

 つい、(しら)けたように目を細める。

(きみのものじゃないのにさ)

 ややあって、委員長への対応を終えた颯真がふと芽依の方を見た。

「日下」

 はっとした芽依の顔に色が戻る。

「はい……!」

 颯真に手招きされ、勢いよく立ち上がると教卓の方へ駆けていく。

「今日、日直だよな。悪い、朝渡すの忘れてた」

 そう言って、颯真は学級日誌を差し出した。

「頼む」

「……はい」

 颯真の微笑を受けた芽依が嬉しそうにはにかむ。
 さっきまでの形相(ぎょうそう)が嘘みたい。

(……分かりやす)

 ころころ変わる感情をまったく隠せないようだ。
 学級日誌を大事そうに抱えて戻ってきた彼女に声をかける。

「ねぇ、芽依ちゃん。ノート貸して」

「また? 何の?」

 すっかりご機嫌らしく、無駄ににこにこしている。

「現代文と日本史」

「えっと、ちょっと待ってね」

 机の中を漁り、2冊のノートを渡してくれる。

「寝てたもんね。返すの今日じゃなくてもいいよ」

「本当?」

「うん、無理しないで」

 労るように微笑まれる。
 その優しさに嘘はないのだろう────“敵”じゃなければ。
< 122 / 140 >

この作品をシェア

pagetop