スイート×トキシック

第18話


 目を覚ましたとき、辺りは明るくなっていた。
 もう朝だ。

 ふと横を見ると枕が見えて、そういえば十和くんと一緒に眠ったことを思い出した。
 でも、彼の姿はない。

「起きた?」

 不意に声が降ってきた。

 既に制服に着替えていた十和くんが、布団の(かたわ)らに腰を下ろしている。

「おはよう、芽依」

「!」

 ゆったりとした微笑みを向けられ、思わず顔を隠すように布団を引き上げた。

「何で隠すの?」

「だって……起きたばっかだし。あんまり見ないで」

 身支度も心の準備も整っていない。
 彼の前では少しでも可愛くいたいのに。

「そんなの気にしなくていいよ。芽依はいつでも可愛いんだからさ」

 くすくすと笑いながらわたしの髪に触れた。

 嘘でもお世辞でも、十和くんに“可愛い”と褒められると心がくすぐったくなる。



 布団をどけて起き上がった。
 ちょっと照れくさく思いながら座る。

「朝ご飯食べた?」

「あ、うん。ごめんね、本当は一緒に食べたかったんだけど」

「ううん、わたしがもっと早く起きればよかっただけだから……」

 もう着替えているところを見ても、そろそろ家を出る時間なのだろう。
 のんびりしていると遅刻してしまう。

「トースト焼いといた。ダイニングのテーブルに置いてあるから」

 十和くんはわたしの手を取りつつ、なんてことないように言った。

「え」

「あ、はちみつとかジャムとか好きに使っていいからね。あと、昨日買ったスイーツの残りと飲みものは冷蔵庫に入ってるから、それも────」

「ま、待って。いいの? そんなこと」

 彼が不在の間にこの部屋から出ることは、これまで一度も許されなかった。

 当然と言える。
 監禁を続けようと思ったら、それだけは防がなければならないことだ。

 ふと、以前フォークを使ってこっそり抜け出したことを思い出す。

 結局あれは十和くんの罠で、わたしはすぐにまた連れ戻されることになったわけだけれど。

(また、罠じゃないよね……?)

 つい探るように見つめてしまう。

「ん? 当たり前でしょ」

「……でも」

 一歩部屋を出れば、通報も脱出も簡単に出来てしまう。
 彼の監視もない、という前提ならば尚さら。

 わたしの(うれ)いをよそに、十和くんは吹っ切れたような表情で言う。

「昨日、芽依に言われて気付いたんだよ。俺、口では“信じてる”とか言ってたけど、ほんとはびびってたみたい。覚悟が足りなかったのかも」
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