スイート×トキシック

 それから本格的につきまとい、彼女の自宅や行動パターンを把握した。

 平日はまっすぐ帰宅することが多いけれど、たまに寄り道することもある。
 休みの日にはひとりでカフェなんかに出かけたりもするみたいだ。

 颯真のことが好きなのだから当たり前だけれど、彼氏はいない。

 学校では購買で買ったワッフルなんかをよく友だちと食べている。
 甘いものが好きみたい。

 それから、最近は自販機の苺ミルクがお気に入りのようだ。
 睡眠薬を盛るならそれだろうか。

(俺のことは警戒してないし、難しくなさそう)

 ストーカーより陰湿(いんしつ)なストーカー行為を続けつつ、颯真が見る前にシューズロッカーの中身を回収する日々。

 芽依を(さら)う隙を、虎視眈々(こしたんたん)と窺っていた。



     ◇



 ある日の放課後、ついにチャンスが訪れた。

 教室にひとりきりの彼女。
 颯真のシューズロッカーに忍ばせるつもりでいるのだろう手紙を見つめてぼんやりしている。

(……やれる)

 ひっそりとほくそ笑み、たったいま偶然気がついたみたいに歩み寄った。

「あれ、芽依ちゃん」

「あ、朝倉くん……!」

「まだ残ってたんだ。大変だね、日直」

「ううん、そんなこと……」

 慌てて隠された手紙には気づいていないふりをしながら、隣の席に腰を下ろす。

「朝倉くんは帰らないの?」

「……あー、えっと」

 後ろ手に隠していた、苺ミルクのペットボトルを2本掲げてみせる。

「ごめん。実は芽依ちゃんが残ってること知ってて戻ってきた。労いってことで、1本あげる」

 差し出した方には、砕いて粉状にした睡眠薬を溶かしてある。

 ジップつきの小さな袋に入れて、いつ機会が訪れてもいいようにここのところずっと持ち歩いていた。

 きゅ、となるべくきつくキャップを締め直しておいたけれど、別に緩いことがバレても開けてあげたことにすればいい。

「いいの?」

「うん。好きでしょ、これ」

「ありがとう。でも、どうして知ってるの?」

「人づてに聞いただけ。好きな人のことは何でも知りたいと思うじゃん」

 実際には俺のストーキングの賜物(たまもの)
 けれど、そんなこととは夢にも思わないはずだ。

「本気?」

 少し呆れたように笑いながら、芽依はキャップに手をかけた。

(思った通り、ちょろーい)

 キャップが緩いことに気づきもしない。
 いや、気づいたかもしれないけれど、まったく無警戒だった。

 彼女が苺ミルクに口をつけたのを見て、ひっそりと笑う。

 まだ気は抜けないけれど、もう半分は成功したも同然だ。
 スマホで時刻を確かめておく。

 久しぶりに口にした苺ミルクはかなり甘かった。
 芽依くらい甘い。

 なんて毒を持った言葉を押しやって、彼女の心ごと奪う土台を整えていく。
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