スイート×トキシック

第19話


 夕食の時間になった。

 手伝わなくていいから待ってて、と言われ、大人しく部屋にいたけれど……。

(あれ(、、)って────)

 動揺が抜けきらない。

 気のせいだと分かっていても、ずっと袋の中身が気がかりだった。

 見えたのは一瞬だけ。
 そもそもちゃんと見えたかどうかも(さだ)かではない。

 でも、どうしても不穏な代物にしか思えなかった。

 もし本当にあれがブルーシートとノコギリだったら、何に使うつもりなんだろう?

(か、解体……とか?)

 恐ろしく残酷な想像しか出来ない。
 肌が粟立(あわだ)ち、背筋が冷えた。

 見間違いかもしれない。

 そう自分を納得させようとしても、十和くんの態度も引っかかっていた。

(……中身、見られたくないみたいだった)

 日用品を調達してきただけだと言うならば、わたしに見られたって問題ないはずなのに。



『いなくなっちゃうかと思った……』

 そう不安がっていた割には、真っ先に帰ってこなかった。
 途中で寄り道して買い物までしてくる余裕があったんだ。

「十和くん……」

 心の中に黒い(もや)が立ち込めていく。
 急激に自信がなくなってきた。

(わたし、本当にこれでよかったんだよね?)

 この家に、彼のそばに留まる選択をしたのは果たして本当に正しかったのだろうか。

 後悔なんてしないと思っていた。

 それなのに、信じようとしたタイミングでいつも不吉な展開に見舞われる。水を差される。

(もう今さら、逃げられないのに……)



「芽依、ご飯出来たよー」

 ドアの向こうから彼に呼びかけられた。
 びくりと肩が跳ねてしまう。

 自分の速い心音に気が付いた。
 指先が温度を失っていく。

(何これ……。わたし、怖いの?)

 まるで最初の頃、十和くんを恐れて怯えていたときと同じだ。
 両手を強く握り締めた。

 昨晩の会話は何だったの?
 これまで一緒に過ごしてきた時間は幻だったの?

 自分が情けなくなる。
 ……この程度の覚悟しかなかったんだ。

「…………」

 かぶりを振って、まとわりついてくる疑念や恐怖を振り払おうとした。
 でも、離れてくれなかった。

 怪しげな袋の中身は、一瞬だったからこそ逆に鮮烈(せんれつ)に焼きついてしまったみたいだ。

 素直に十和くんを信じられない自分を責めても、一度覚えてしまった危機感を上書きすることは出来なかった。



「……芽依ー?」

「い、今行くね」

 返した声が硬くなる。
 いつも通りに振る舞えなくて、嫌でも自覚した。

(わたし、結局今でも怖いんだ……)

 十和くんのことが。

 分かり合えたはずだった。
 わたしたちは対等になったと思っていたのに。

(……おかしいな)

 こんなに好きなのに、怖いだなんて。
 確かにそのふたつの感情が両立していた。

 優しい彼を知っている。
 だから恐怖心なんて簡単に消し去れると思っていた。

 見たい部分だけを見て、信じたい部分だけを信じることが出来たなら、それはきっと本当に難しいことじゃなかったはず。

 いずれにしても、もう後戻りは出来ない。

 こんな感情を抱えたまま、ふたりで暮らしていけるのかな……?
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