スイート×トキシック

(どこにあるだろう……?)

 彷徨(さまよ)うように歩いていく。

 一度ほとんど家中を歩き回ったとはいえ、あのときは暗かったし必死だったから、間取りを完璧に把握できているわけじゃない。

 わたしが知っているのはあの監禁部屋とお手洗い、洗面所の位置関係くらいだ。

 廊下を進んで、突き当たったドアを適当に開けた。

(リビング?)

 ソファーやローテーブル、テレビなんかが置いてある。
 きちんと整頓(せいとん)されている上に掃除が行き届いていて、洗練された印象を受けた。

 この家は全体的にそんな感じだ。
 十和くんは意外と几帳面(きちょうめん)な性格みたい。

 ローテーブルの上には今日の新聞が置いてあった。
 普段から読んでいるのか、わたしの件が報道されているかどうかをチェックしているのか。

 手に取ってざっと目を通してみると“女子高校生が行方不明”というそれらしい見出しを見つけた。

 記された“日下芽依”という名前は間違いなく自分のものなのに、どこか他人事みたいに感じられる。

 それでも、わたしの居場所はまだちゃんと外にある。捜してくれている人がいる。
 そのことにほっとしてしまった。

(え……?)

 だけど、記事には不可解なことも書いてあった。
 わたしが姿を消した学校付近で、不審な乗用車の目撃情報があったという。

(この車って、先生のと同じ……?)

 車種はポピュラーなコンパクトカーだから、偶然という可能性の方が高い。
 だけど、何だか胸騒ぎがした。

(ありえない。先生は無関係に決まってる)

 新聞を素早くテーブルの上に戻しておく。
 ナンバーも不明らしく、特定は難しいだろう。

 けれど、わたしが逃げ出すことさえできればそれでいい。

「!」

 立ち上がって、はっとする。
 ソファーの影になっていたところに、鞄が置かれているのが見えた。

 焦げ茶色の革製。
 チャームにも見覚えがある。

(わたしの!)

 思わず駆け寄ると、確かめるように触れてみる。
 外側のポケットには何も入っていない。

 素早くファスナーを開けて中を見た。
 教科書やノートがあの日と変わらないままそこで眠っている。

 ペンケースやポーチをどけてみると、目当てのものが姿を現した。

「あった……」

 そっとスマホを手に取ってみる。
 久しぶりに触れたけれど、すぐに手に馴染んだ。

 バッテリーは残っているかな、なんて考えながら、とりあえず電源ボタンを長押ししてみる。
  起動するまでの時間が永遠のように感じられた。
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