【受賞】コワくてモテる高杉くんはせわが好き。
○学校・準備室(夕方)
教科書を運び終わる。先生の指示通りに棚に本を納めた。
理人「帰るか」
せわ「うん。手伝ってくれてありがとう!」
……ガチャ。そのとき、外から施錠される音がする。
せわ「へ……?」
二人で顔を見合わせる。慌てて扉をどんどん叩くが、反応はなかった。青ざめたせわは、理人と顔を見合わせる。
せわ(もしかして私たち、閉じ込められた……!?)
せわ「どうしよ、これやばくない? 理人、携帯は?」
理人「教室置いてきたわ。マジか……これ、朝まで出られないやつ」
せわ「ええっ、嫌だ……スタバの新作……」
理人「そういう問題じゃないだろ。てかこの部屋、電気壊れてね?」
理人は照明のスイッチをカチカチ押すが、反応がない。廊下の照明の明かりだけが頼りだったが、数秒後、廊下の電気も見回りの先生が消してしまう。
真っ暗になった。
理人「大丈夫? せわ、確か暗所恐怖しょ――」
せわ「……………」
理人の腕にしがみつき、震えるせわ。母親が亡くなった日は、大雨のせいで停電していた。それがトラウマになって、暗所恐怖症になったのだ。夜は電気を点けて眠れないし、真っ暗なところに行くと過呼吸になる。
せわ(どうしよう、どうしよう、どうしよう。怖い……)
せわ「はっ、はぁはぁ……はぁ……っ」
うずくまり、顔面蒼白で過呼吸になるせわ。理人はせわの背中を擦りながら囁く。
理人「大丈夫。落ち着け、俺が傍にいるから。お前一人じゃない」
せわ「苦し……っ、どうしよ……ハッ、はぁ……っ。息、くるしくて……」
涙目になりながら、荒々しく息をする。理人は冷静な様子で、ただせわの背を優しく撫で続けた。
理人「ゆっくり息を吸って……吐いて。そう、上手」
せわ「ふっ……はぁ……」
理人のおかげで、少しずつ過呼吸が治まっていく。理人の手が離れていって、急に切なくなる。
せわ「理人、どこ……? やだ。手、離さないで」
理人「大丈夫。俺は傍にいるから」
理人がぎゅっと手を握ってくれて、ほっと安堵する。
せわ(不思議……。理人が傍にいてくれると、安心する)
理人「もう怖くないだろ?」
せわ「うん。怖くない」
せわはこくんと小さく頷く。
せわ(やっぱり、好きだなぁ。幼馴染としか思われてないって分かってるけど、大好き……)
好きが溢れて止まらない。せわはぎゅうと理人の手を握り、唇を開いた。
せわ「――ねぇ、理人」
理人「ん?」
耳を傾ける彼。
せわ「私、理人のことが――」
ガラリ。ちょうどバットタイミングで引き戸が開いて、先生が入ってくる。手には懐中電灯を持っていた。
先生「お前ら、こんなとこで何して――」
せわ「ひゃぁぁあっ!?!?」
手を繋いでいるところを目撃されて、真っ赤になって飛び退くせわ。
先生「随分と仲良しみたいだな」
せわ「違くて……これはその、暗いところが怖いからで……」
先生「まぁなんでもいいが、さっさと帰れ」
理人が冷静な口調で尋ねる。
理人「どうして俺たちが閉じ込められてるのが分かったんですか?」
先生「教室に荷物置きっぱだったろ? 何かあったんじゃないかと思って見に来たんだ」
理人「助かりました」
理人はすっと立ち上がり、せわに手を伸ばした。
理人「立てれる?」
せわ「う、うん……。大丈夫」
せわは理人の手を取らずに自分で立ち上がった。ふらふらと覚束ない足取りで準備室を出る。
準備室に残された理人と先生。
先生「お前ら付き合ってるのか?」
理人「――俺の片想いです」
先生「はは、それは難儀だな。朝比奈はそーいうの鈍そうだから」
理人「全くです」
○街道(下校中)
せわ「なんだか今日はすごい疲れた気がする」
理人「だな。てかお前さっきなんか言おうとしてた?」
せわ「!」
せわ(そうだ。さっき私、弾みで好きだって言いそうになってた。危ない危ない……)
その場の勢いで告白しかけたことを思い出して、顔が熱くなる。
せわ「ううん、なんでもないっ」
理人「なんだそりゃ」