惚れた弱み
「あ、あれ?QRコードってどうやって出すんでしたっけ?」
そう言って操作に戸惑っている菜々に「借りていい?」と言ってスマホを受け取る。
ササッと操作し、「はい」と言って菜々にスマホを返した。
返す時に、少し菜々の手に触れてしまった。
少しドキッとしたが、冷静を装ってラインの画面に目をやる。
『橋本菜々』
そう表示されたアイコンが、自分のスマホ画面にある。
それだけで博孝は、ニヤニヤが止まらなくなりそうだった。
「ありがとうございます。」
菜々がそう言うと、博孝も慌てて「こちらこそ」と返した。ニヤけ顔を必死に抑えたが、隠せていただろうか。
菜々とは帰る方向が反対だった。手を振って別れる。
「…あ、橋本ちゃん!」
そう言って、帰ろうとした菜々に、声をかけた。
「今日、辛かったと思うけど、よく泣かなかったね。エライ。」
最後に一言、菜々に印象付ける言葉を言いたかっただけだけれども、その一言を放つ自分は、我ながら意地が悪いと思った。
――自分と向き合って、よく考えてほしい。橋本ちゃんはきっと、泣かなかったんじゃなくて、泣けなかったんだよ。それは、相良君の事、本気じゃないからだよ、きっと。
そんな思いを込めていた。