惚れた弱み
ぼーっとして人混みの中を見つめる菜々に、博孝が声をかける。
「どうしたの?」
博孝がもう一度声をかけて、ようやく菜々は我に返った。
「あ、ごめんなさい!私、ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか?」
「え?あぁ、うん。いいけど…」
「すぐ戻ってきますね!」
そう言うと、菜々はその場を離れていった。
――なんか変じゃなかったか?
菜々が先ほど目を向けていた方を見てみると、通り過ぎた人ごみの中に、相良の横顔と、その顔を見つめる女子の横顔を見つけた。
――あれか。
そう思った瞬間、博孝は菜々を追いかけていた。
人ごみの間をすり抜けながら、菜々の姿を探す。
途中、女子トイレがあったが、そこに並ぶ列の中にはもちろん菜々の姿はなく。
焦りが生まれた。
――まさか、このまま帰る気なんじゃ…。
そう思い、参道まで出ると、見覚えのある浴衣が目についた。
咄嗟に腕を掴むと、反射的に振り向いたのは、間違いなく菜々だった。
「…はぐれないでって……言ったろ。」
はぁはぁ、と息を吐きながら、呼吸を整える博孝。
「どうして…?」
驚いて上手く声が出ない様子の菜々。なぜ博孝が気付いて追いかけてきたのか、理解できていないようだ。
博孝は、そんな菜々を見下ろし、真剣な顔で言った。