惚れた弱み


「うまそーな匂い!何作ってるの?」


「矢嶋先輩…。サッカー部のメンバー向けに、バレンタインチョコを作ってました。」


少し、声が震えている。


――そっか。2月だし、バレンタインの時期なのか。


「マジで?いいなぁ、羨ましー。」


そこまで言うと、思わず窓枠にかけている手に、ぐっと力が入る。


「俺にはないのー?」


せめてもの希望を賭けて、そんなことを言ってみた自分がいた。


恥ずかしくないように、冗談っぽく。


好きな子からバレンタインチョコを貰いたい。
そんな欲が見え隠れしている。


「あ、どうぞどうぞ!たくさんあるので食べてみてください〜!ほら、橋本ちゃん。お裾分けしようよ。」


神崎が近くにあった平皿に、トリュフチョコを数個乗せ、菜々に渡した。


「…どうぞ。」


そう言って、菜々が皿を差し出す。


差し出された皿からトリュフをひとつ取り上げ、口に入れると「1つで十分だよ。お裾分け、どーも。」と言い、残りのチョコには手を付けない。


菜々が作ったトリュフチョコ。美味しくないわけがない。


でも、本来であればサッカー部のメンバーにあげるためのチョコ。
そのうち数個を、「ついで」と言わんばかりに菜々から貰って、嬉しいわけがなかった。

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