惚れた弱み
「え?美味しくなかったですか?せっかくなので、もう1つ…」
そう神崎に言われたので、にっこり笑ってこう言った。
「いや、マジで美味しかったよ。でもさ、これって義理チョコのお裾分けでしょ?」
そこまで言うと、泣き出しそうな顔の菜々を見つめながら言葉を続けた。
「…好きな子からは本命チョコもらわないと意味ないからさ。」
精一杯、今伝えられるだけの自分の好意を言葉に乗せる。
思わずポンポンと菜々の頭を撫でた手にも、好意を込めた。
でも、それに対する菜々の反応を見るのが怖くて、菜々の表情を見るまでの勇気は湧かなかった。
そのまま「お邪魔しました。」と言い、その場を去った。
――俺も、諦めが悪いよな。
最後に菜々の頭を触った手をじっと見つめる。
相変わらず可愛かった。いや、むしろ半年程顔を見ない間に、ますます可愛さが増した気がする。
――恋をしてるから可愛くなったのかもな。…その気持ちは俺には向いてないけど。
自分で言っておいて悔しかった。
菜々のことを考える度、胸が苦しくなる。
その苦しさを忘れるため、国立大学の試験本番に向けて、ラストスパートをかけ、勉強に打ち込んだ。