惚れた弱み

突然、ポケットに入れていたスマホが振動した。


ポケットから取り出し、画面を確認する。


登録していない番号。固定電話ではない。


――誰だ？


そう思いながら立ち上がり、姉達から少し離れて部屋の隅へ移動した。
出るべきか迷ったが、とりあえず通話ボタンを押した。


「…はい」


名乗らず応答してみる。すると…


『もしもし？矢嶋先輩ですか…？』


途端に心臓が跳ね上がった。


聞き覚えのある声。消え入りそうな、自信なさげな声。


まさか。


疑いながらも、相手を確認する。


「…橋本ちゃん？なんで番号…」


矢嶋姉妹は、只事ではない雰囲気を感じ取り、息をひそめた。


部屋の隅でスマホを耳に当て、固まっている弟を、離れたところから見守っている。


博孝の耳には、思ってもみなかった言葉が入ってきて、姉達が後ろで聞いているなんてことを思い出す余裕もなくなっていた。


『堀越先輩が教えてくれたんです。私が矢嶋先輩と連絡とりたいって言ったから。』


「そうなの！？マジか。嬉しいよ。」


――嘘だろ。これって現実？橋本ちゃんが俺と連絡とりたいって思ってくれたなんて。しかもわざわざ、夏樹に連絡先を聞いてくれたなんて。