惚れた弱み
『寂しい…です。もう会えない…の?』
泣き出しそうな声。泣きそうなくらい、自分に会えなくなるのは寂しいと思ってくれている、と捉えていいのだろうか。
黙っていると、受話器の向こうから嗚咽が聞こえてきた。
愛おしい。今すぐ会って、抱きしめたい。
「…今から会う?」
そんなことは望んでいないかもしれない。でも、ダメ元でそう言ってみた。
『会いたい、です。』
ドクンと心臓が脈打った。これは…期待していいのではないだろうか。
「…俺も。とりあえず、俺がそっちに向かうよ。駅で待ってて。」
そう約束して、一旦電話を切った。
――会える。
ニヤケ顔のまま振り向くと、2人の姉もニヤケ顔で、こちらを見ていた。
「ひろたかくーん?進学先、いつ東京の方の大学に変更したのよ?」
「嘘までついちゃって~。電話の相手、誰ー?」
「…うるせー。」
姉達の存在をすっかり忘れて通話していたことが恥ずかしくなり、精一杯の反撃の言葉を返した。
急いで部屋へ行き、着替えて髪を整えると、インターハイでの走りに負けないくらいのスピードで電車に飛び乗った。
会える。
会える。
しかも、2人きりで。
菜々も、会うことを望んでくれた。
ということは、気持ちの熱量としては同じくらいと考えていいのではないだろうか。
期待ばかりが膨らむ。