嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
「それにしても……お姉様のくせに、ずいぶんと上等なドレスを着ているじゃない? あとで私にも贈ってよ。どうせ公爵様から愛されず、無駄にお金だけ渡されているんでしょう?」

 マイアは震えていた。
 いつもこうだ。

 コルディアを前にすると、何も言えなくなってしまう。
 実家で家族や使用人から受けた仕打ちがフラッシュバックする。
 どうしても言葉を返せず、言いなりになってしまって。

 それが当然だと育てられてきたから。
 妹の方が格上だとしつけられていたから。

「……ぁ」
「ねえ、皆さま知っていらして? お姉様ったら、何かを勘違いしてこの夜会に来ているのよ。ダンスも碌に踊れないし、淑女としての振る舞いも性格もなっていない。皆さまもお姉様の悪い噂は知っているでしょう? ダンスの時間になったら、さぞ恥を晒すことでしょう」

 コルディアはマイアを嘲笑する。
 こうして姉を見下すことで、自分が優位に立てると思い込んでいるのだ。

「その言葉……本当だとは思えませんわ。どうなの、マイア様?」

 流れを見ていたアンヌが尋ねる。
 おそらく彼女はマイアの味方をしてくれるつもりだったのだろう。
 しかし、

「……えっと」
「ほら、答えられないじゃない! お姉様が否定しないということは、私の言葉は事実ということよ。まったく、社交界に出たことのないお姉様が夜会に出るなんて……勘違いも甚だしいでしょう?」

 ゆっくりと怯えるマイアに歩み寄るコルディア。
 彼女は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
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