嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 コルディアはその光景に目を疑った。
 金髪碧眼の貴公子がマイアを抱き寄せ、剣呑な雰囲気でこちらを睨んでいる。

 彼はマイアを「俺の妻」と呼んだ。
 この美青年が噂のジョシュア公だとでも言うのだろうか。
 だとすれば、コルディアはとんでもない思い違いをしていたことになる。

 超堅物、女嫌い、暴力漢。
 数多の悪評からイメージしていたのは、小太りで態度の悪い中年の貴族だった。しかし、この男性は想像とかけ離れた優雅さを持っていた。

「ね、ねえマイア……その方がジョシュア様?」
「俺がジョシュア・エリオットだ。貴様はコルディア・ハベリアだな」

 場が凍り付くほどの怒気を向けられているにもかかわらず、コルディアは自分の立場がわかっていなかった。あくまでマイアを下に見ていたのだ。

 きっとジョシュアの振る舞いも、公だけのもの。
 裏では二人の間に愛などないに違いない。
 そう確信したコルディアは、優雅を装って一礼する。

「はじめまして、ジョシュア様。私、マイアの妹のコルディアと申します。見目麗しいジョシュア様の姿に、私惹かれてしまいましたわ」

 コルディアはジョシュアに狙いを定めて歩み寄る。
 彼女が一歩進むたびに、腕の中のマイアが震えるのがわかった。

 ジョシュアはそんなマイアを守るため、コルディアの前に出る。

「寄るな。俺の妻を虐める者など、近づいただけで吐き気がする」
「な、何を御冗談を……私がお姉様を虐めるなどと。年下が年長者を敬うのは当然のことで、私たちとても仲良かったでしょう? ね、お姉様?」

 コルディアは勝ち誇ったように笑う。
 マイアは自分に逆らえない。
 一度だって、コルディアの言葉を否定したことがないのだから。

「…………」

 ジョシュアはマイアの様子を確かめる。
 この調子では本音を言いたくても言えないだろう。
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