後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
毒入り饅頭
「ご飯探して歩き回るより疲れた……」
湯あみと着替えが済んだ夏晴亮は、さっそく命じられた掃除を懸命に行っていた。綺麗にしてもらえて大変有難いと思いつつも、今までの生活を考えると掃除の方が性に合っている。ひらひらした服にもまだ慣れずたまに転びそうになるが、毎日身に着けていればどうにかなるだろう。
「よし、廊下はこれで終わりかな」
部屋の中は新人には任せられないらしく、ただ拭くだけの掃除をひたすら行った。満足気に顔を上げる。夏晴亮の口がポカンと開いた。
「はて、掃除が終わったのはいいけど、部屋はどこだっけ」
宮女に用意された部屋に戻りたいのに、右を見ても左を見ても、見慣れぬ廊下が広がるばかりで。夏晴亮はその場で深呼吸をした。
「それにしても、ここはいつでも良い匂いがしていいなぁ。んん、何やら甘い匂いが……あれは!」
――お饅頭だぁ~~~~~ッ!!
夏晴亮の視線の先には饅頭を持った男がいた。豪奢な漢服に、髪を全て結い上げた凛々しい印象の青年だ。迷子だったことも忘れ、一目散に駆けていく。夏晴亮に気付いた男が夏晴亮に気が付き睨んでくるが構わない。夏晴亮は髪の毛を乱しながら言った。
「あっ、と、すみません。そのお饅頭をどうされるのかなと気になりまして」
初対面の相手にねだることが出来ず、夏晴亮は当たり障りのない問いかけをする。男の顔が苦痛に歪んだ。
「まさか、これを私に食べろと言うのか?」
「いえ、とんでもない。ご自身の自由にされたらいいかと存じます……が、実に美味しそうな匂いですね」
「なんだこいつ……」
男が夏晴亮から二歩程離れ、饅頭を放り投げた。その軌道に合わせて夏晴亮が飛び上がった。「大変!」
反射的にそれを掴み、そのまま口にした。男は呆気にとられ、動けずに見守ることとなった。
「た、食べた……」
夏晴亮がお辞儀をする。
「つい癖で。申し訳ありません」
「あれは毒が入っていたんだぞ!」
湯あみと着替えが済んだ夏晴亮は、さっそく命じられた掃除を懸命に行っていた。綺麗にしてもらえて大変有難いと思いつつも、今までの生活を考えると掃除の方が性に合っている。ひらひらした服にもまだ慣れずたまに転びそうになるが、毎日身に着けていればどうにかなるだろう。
「よし、廊下はこれで終わりかな」
部屋の中は新人には任せられないらしく、ただ拭くだけの掃除をひたすら行った。満足気に顔を上げる。夏晴亮の口がポカンと開いた。
「はて、掃除が終わったのはいいけど、部屋はどこだっけ」
宮女に用意された部屋に戻りたいのに、右を見ても左を見ても、見慣れぬ廊下が広がるばかりで。夏晴亮はその場で深呼吸をした。
「それにしても、ここはいつでも良い匂いがしていいなぁ。んん、何やら甘い匂いが……あれは!」
――お饅頭だぁ~~~~~ッ!!
夏晴亮の視線の先には饅頭を持った男がいた。豪奢な漢服に、髪を全て結い上げた凛々しい印象の青年だ。迷子だったことも忘れ、一目散に駆けていく。夏晴亮に気付いた男が夏晴亮に気が付き睨んでくるが構わない。夏晴亮は髪の毛を乱しながら言った。
「あっ、と、すみません。そのお饅頭をどうされるのかなと気になりまして」
初対面の相手にねだることが出来ず、夏晴亮は当たり障りのない問いかけをする。男の顔が苦痛に歪んだ。
「まさか、これを私に食べろと言うのか?」
「いえ、とんでもない。ご自身の自由にされたらいいかと存じます……が、実に美味しそうな匂いですね」
「なんだこいつ……」
男が夏晴亮から二歩程離れ、饅頭を放り投げた。その軌道に合わせて夏晴亮が飛び上がった。「大変!」
反射的にそれを掴み、そのまま口にした。男は呆気にとられ、動けずに見守ることとなった。
「た、食べた……」
夏晴亮がお辞儀をする。
「つい癖で。申し訳ありません」
「あれは毒が入っていたんだぞ!」