後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

宜しくないですが

 あるいはこうして毒見をしたとしても、その後に第一皇子の皿に毒を盛られたら、いっそ皿に元々塗られていたらどうだろう。万が一実行されたら、毒見をしても無駄になるのではないか。

 むしろ、毒見後では当然安全だと思い込んで、一口目から大口を開ける。そこを狙っての下見かもしれない。

「すみません、第一皇子の昼餉はどなたが持っていかれますか?」
「ああ、それなら私だ」

 第一皇子の食事管理は料理長自ら行なっていることを確認し、夏晴亮(シァ・チンリァン)は馬宰相の部屋へ向かった。

「どうぞ」
「失礼します」
「お疲れ様です。どうでした」

 その場で毒見をし、毒が無いこと、またこの時点での推測を報告し相談した。
 馬宰相も調理場の人の出入りを懸念していたらしく、打開案を提案された。

「取り分けた後に、または皿に直接毒をですか。確かに、毒見師を雇ったことで毒を入れても無駄だと分かったら、次の行動として考えられなくはないです」
「やっぱり」

「ただ、任深持(レン・シェンチー)様のお食事は料理長が鍵付きの棚で管理していますので、そこに仕込むのは難しいでしょう」

 料理長が信頼のおける人間であれば、毒見後に機会は無いらしい。逆に考えれば料理長なら可能ということになるが、犯人がすぐ絞り込める方法で入れるなんて危険は侵さないだろう。

「まあでも、そうですね。何が起きるか分かりませんから、毒見は任深持様が召し上がる直前であればある程いいです。これからは貴方が任深持様のお部屋で毒見して頂きましょう」

「へっ?」

「宜しいですね?」

 夏晴亮に拒否の権限は無い。かくして、想定外に第一皇子の部屋へ訪問することが決定した。
 毒見したら帰っていいというのが不幸中の幸いか。

 どこで毒見をしてもこちらとしては問題無いが、二度も求婚を断っているのであちら側がきっと気まずいに違いない。

 求婚についても報告しておいた方がよいか迷っていると、よほど挙動不審だったのか、彼の方から手を差し伸べてくれた。

「貴方は何も気になさらなくて結構です。任深持様の奇行にお困りなのでしょう」
「奇行……」

 馬宰相も知っていたらしい。それならもっと早く話しておくべきだった。

「私は低い身分の人間です。馬宰相からも正妃は他の方にするよう進言してくださると有難いです」
「そうですね。一度申し上げてみます」
「助かります」

 ほっと胸を撫で下ろしていると、馬宰相が意外なことを訪ねてきた。

「身分のことを考えなかったら、貴方の気持ちはどうですか」
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