後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

賢い相棒

 おかわりを二回して満足していた夏晴亮(シァ・チンリァン)だったが、夕餉について思い出し、腹の辺りを寂し気に擦る。夕餉ももちろん楽しみだ。しかし、その前にやるべきことが増えた。

阿雨(アーユー)に教えなくちゃ」

 部屋で待っている雨の元に向かう。

「阿雨」
『わんッ』

 雨は一匹で大人しく遊んでいた。馬宰相が与えてくれた毬がお気に入りらしく、ころころと転がしている。これを馬星星が見たら、勝手に毬が動いているように見えるのだろうか。

「おすわり」
『わん』

 遊んでいた雨が、夏晴亮の一声で綺麗におすわりする。夏晴亮が二番目の引き出しから王族の似顔絵一覧を取り出した。

「これから見せる紙に描かれた顔を覚えてほしいの。二人だけだけど、出来る?」
『わんッ』
「難しかったら教えて。出来なくても怒ったりしないから」

 似顔絵を見せながら名前を伝える。その後、紙を床に置き、名前を言うと正解の紙を持ってきた。とても賢い。自分より早く覚えられ、なんとなく気まずい気持ちになった。
 正解するたびに頭を撫でると、雨はとても嬉しそうに鳴いた。

「全部正解。すごい! 実は今日から重要な任務があるの。私は一緒じゃないけど、終わったら沢山遊ぼうね」
『わん』

 少し寂しそうであるが、きっとしっかり任務に就いてくれるだろう。

 雨には出来る限り、最小限のことを伝えた。調理場にいること、教えた二人が来たかどうか、この二点のみだ。あまり細かいことを伝えて、大切なことを見逃したらいけない。犯人がいつ狂暴化するかも分からない。たまに毒を入れる程度で済まされている内に捕まえる。これが一番の目標だ。

 本当は、王族ではない、誰かも分からない第三者が犯人だったらいいのに。そうは思うものの、第三者が易々と忍び込める場所ではない。捕まえたら皆幸せという結末にはならないだろう。
 しかし、捕まえなければならない。

「さて、あとは私の問題か」

 雨と毬を転がし合いながら夕餉の時を思う。何か会話した方がいいか、業務中だから淡々とこなす方がいいか。人の気持ちというものはこんなにも難しい。

「阿雨、これから午後のお仕事してくるけど、一緒に行こうか。調理場に行く時間になったら教えるね」
『わんッ』

 掃除の仕事中も雨は任務を意識してか、夏晴亮の見える範囲でうろちょろして辺りを観察しているようだった。逞しい相棒を持って心強く思う。

 夕餉の半刻前、調理場が作り始める時間になり、雨を調理場近くまで送る。夏晴亮も宮女の業務を終わらせて、馬宰相に教えてもらった部屋へと歩いていった。
< 33 / 88 >

この作品をシェア

pagetop