後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

重なる日

「では、第二皇子のお食事には普段お酢が入っていないというわけですか」
「そうだね」
「他に好き嫌いはありますか?」
「茸くらいかな。あとは無い」

 夏晴亮(シァ・チンリァン)が料理長に頭を下げる。

「分かりました。お忙しいところ有難う御座います」
「いやいや、そちらこそいつもありがとう。前から毒に関しては宮廷で頭を悩ませているから助かるよ」

 料理長と別れ自室に戻る。(ユー)は丸くなって床にぺたりと寝転んだ。最近沢山働かせてしまったので、ゆっくり休んでもらおう。夏晴亮は料理名が書かれた紙を取り出し、その下に第二皇子の嫌いな物をつけ足した。

 他にも話し合いで気が付いたことなどが書かれている。文字を書くのにも慣れた。勉強の賜物だ。それらを眺めていた夏晴亮が顔を上げた。

「もしかして──」






「酢と茸? どちらも嫌いではない。というより、嫌いで避けている食材は無い」

 翌日、朝餉の際、夏晴亮は任深持(レン・シェンチー)に食べ物の好き嫌いを聞いた。予想通り、酢と茸は食べられるということだった。酢に関しては今までもよく使われていたので知っていたが、茸も問題無いと分かった。これで先に進める。

「昨日、あれから料理長に第二皇子について伺ったんです。そしたら、彼はお酢と茸が嫌いで料理には入れていないそうです」
「酢と茸か……馬牙風、直近一週間分の料理名を教えてくれ」
「はい、こちらに」

 (マァ)宰相が料理一覧が載った紙を差し出す。そこに、毒が入っていた料理と、酢や茸が使われた料理に任深持が印を付けた。

「茸が使われたのは二回だが、毒が入っていた時は無いな。酢は五回で……その内三回毒が入っている。つまり、酢が関与していると考えていいだろう」
「お酢ですか!」

 夏晴亮が紙を凝視する。これでかなり正解に近づいた。あとは酢がどう関係しているのか突き止めればいい。

「このお酢は王族と従者たちとで違うものを使っていたりは」
「しないと思います。皇帝たちは完全に別室で調理していますが、皇子お二人は出来る限り同じものを使用していると聞きました。それも不用意に毒が入らないようにという理由ですが」
「それをすり抜けている。巧妙な犯人だ」

 夏晴亮が無言で紙を見つめ続ける。犯人が直接毒を入れていないのであれば、自分たちとの料理と違うものが他にあるはずだ。

「金箔」

「夏晴亮?」

「金箔です。王族にしか使われていないです。毒が使われた日は金箔とお酢の両方が使われている。そして、第二皇子にはお酢が入っておらず金箔のみ」

「つまり、両方合わせると毒が発生すると言いたいのですね」
「はい」
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